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自然独占の民営化空港に対する法的枠組みを!
民営化された公共的自然独占事業における公益と私益の調整(2004年10月)

日本航空上席執行役員  金成秀幸
(戦略リサーチ部担当、総合経営企画室副室長、政策業務室副室長) 

はじめに

 わが国における空港民営化の歴史は、1984年10月の関西国際空港(株)設立に始まる。次いで1998年5月に中部国際空港(株)が設立され、本年4月には成田空港公団が民営化されて成田国際空港(株)となった。関西、中部の両空港会社と異なり、市場環境、経営状況からして、完全民営化の現実的な可能性をも秘めた成田国際空港(株)の経営陣からは、最短で2007年度には株式を上場したいとの意気込みが表明されている。

 空港運営事業は、鉄道、電気通信事業などと同様に、高い公共性と自然または地域独占性を内在している。空港、鉄道、電気通信などは、わが国の基本インフラであり、わが国経済の活性化ならびに国際コスト競争力の回復・強化という観点から、その使用料金水準を経済合理的に低位に維持することは「公益」にかない、かつまた国の責任でもある。一方、民営化とは、かかる事業を経済合理的に運営するために、株主などの出資者の利益(私益)極大化を基本命題とする株式会社にゆだねることにほかならない。この相対立する関係に置かれる公益確保と私益極大化を調整するために、日本では国鉄や電電公社の民営化の際に、海外においては例えば空港の民営化の際に国民的議論が展開され、その使用料金決定手続きや情報公開などの面で、競争市場にある民間会社以上の規制が課されている。

 しかしながら、空港の民営化については、民営化空港の使用料金の決定手続きも、民営化空港出現以前に定められた手続きがそのまま適用され、空港会社の情報公開に至っては何ら特別な定めもない。

 成田国際空港株式会社法案を審議した2003年5月20日の衆議院国土交通委員会では、現在の法的枠組みのままで成田空港が民営化されれば、当該会社の独占的地位の故に、今でも世界一高い成田空港の着陸料は値下げどころか値上げされるのではないか、との懸念が議員の方々から何回となく表明された。当委員会に参考人として出席された大橋全日空社長も、定期航空協会会長(当時)として、会社の独占的地位を勘案すると、成田国際空港鰍フ株式上場までに、外国の空港民営化例にあるような競争圧力に代わる何らかの新たな仕組みの導入が必要であるとの見解を述べられた。

 空港の運営権や所有権に関して見ると、空港民営化の代表例とされている英国空港会社の場合、プライスキャップという価格規制や会社法(The Companies Act)より厳しい情報公開制度のみならず、特定株主支配阻止などのための1株主の最大株式シェア15%制限、空港譲渡などの重要事項に拒否権を有する政府保有の1株(Golden Share)という規制が課されている。日本の民営化空港の場合、現行法上は事業計画、重要な財産譲渡など、会社運営上の重要事項は政府の認可事項になっているなどの理由で、英国のような制度の導入を見送ったと説明されている(2003年5月16日の衆議院国土交通委員会での政府参考人・洞航空局長[当時]答弁)。当該説明は民営化3空港の最大株主が日本政府であることを前提にしていると思われるが、2002年12月17日の閣議決定は、成田空港公団は「完全民営化に向けて……全額国出資の特殊会社に」し、関空(株)についても「将来の完全民営化に向けて……当面の資金調達の円滑化を図る」とされている。政府の計画どおり完全民営化(全株式の民間への放出)がなされれば、この説明前提は崩れることになる。

 日本のみならず世界の投資家にとっては、成田国際空港(株)の株式上場は大きな投資機会である。そして、成田国際空港(株)は2007年度上場を目指している。一方、この会社経営に、いかなる法的枠組みが適用されるのかということが株式上場前に明らかにされない限り、投資判断は困難である。新たな法的枠組みの検討・策定に必要な時間や国会審議などを勘案すると、来年度、遅くとも2006年度中には本問題について結論を出す必要がある。政府が本問題について早急に検討を開始し、本件に関する国民的議論ができるだけ早く展開されることを期待したい。

 本論では、まず第1章で「なぜ新たな法的な枠組みが必要か」という点について、成田国際空港会社法第1条に定められている会社の目的、現在の空港使用料決定手続きの問題点、空港民営化と情報公開との関係という観点から考えてみたい。そして、第2章では民営化した公共的独占事業において、公益を確保するための国内外の法的枠組み事例を幾つか紹介したい。



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