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安全への取り組み

「安全提言」のフォローアップ所感/柳田邦男
2006年8月30日
安全アドバイザリーグループ座長
柳田 邦男
高い安全水準をもった企業風土の構築を目指して、日本航空安全アドバイザリーグループが「提言書」を提出したのは、05年12月26日でした。それから8ヶ月、折々に本社、羽田、成田をはじめ、全国各ブロック拠点での説明会と交流、安全担当スタッフからの情報提供、安全啓発センターの視察と反響の把握、8月10日西松CEO、岸田専務らとのミーティング、8月12日御巣鷹山慰霊登山などによって、日本航空の安全への取り組みを見守ってきました。

「提言書」では、多岐にわたって、かなりの難題も含む高度な要望を盛り込みましたが、それから8ヶ月ほどの短い期間にもかかわらず、会社が提言の課題の1つ1つについて、かつてない意気込みで取り組んでいる様子を確実に感じることができました。

以下に気付いた点の主なものを記します。
1. 安全への取り組みのための組織改革について

会社全体の安全担当中枢(参謀本部)として、CEO直属の「安全推進本部」を新設(06.04.01)し、本部長に代表権を有する専務をあてたことは、画期的なこととして評価したい。
「安全推進本部」の専任スタッフとして、運航乗務員、整備士等のキャリアを有する要員を配置したこと、さらに経営トップに安全に関する情報を密接に報告する専任の安全補佐(役員待遇)を置いたことも評価できる。
今後は、専任スタッフによるインシデント/トラブル等の情報収集・分析と実務へのフィードバックや系列企業間での安全情報の「水平展開」、各セグメントごとの安全担当スタッフとの密接な協働、等々が一層ダイナミックに展開されること、必要に応じての専任スタッフの強化といった点に注目していきたい。
とくに重要なインシデント/トラブルから組織の安全対策の手がかりを探るための分析法(ツール)を近く導入して、専任スタッフによる実践を開始する計画については、ぜひ積極的に取り組んでほしい。
2. 事故の教訓を生かす取り組みについて

御巣鷹山事故の教訓を風化させずに、全社員の安全意識をたえず高揚させるために、事故機の残骸等を安全重視の原点として展示する「安全啓発センター」の新設は、世界の航空界にも前例のない画期的なものとして、高く評価したい。
提言を真摯に受け取め、異例の即決でその設置を急いだ経営判断は、乗客・家族の立場に寄り添い、安全を経営目標の重要な柱とするこれからの経営のあり方に範を示したものと言うべきであろう。それはまた、意識改革のシンボルととらえたい。
御巣鷹山の登山道が一段と整備されたことも評価できよう。
「安全啓発センター」の開設などが、ご遺族と日本航空の間に心の通い合いを生み出したことは、同センターを訪れたご遺族や慰霊登山のご遺族の言葉や表情から伺うことができた。
事故の教訓を単なる情報としてでなく、全身で受け止め、心に深く刻むには、「現場に立つ」「現物を見る」という経験が重要である。そのことは、同センターを見学した社員の次のコメントが如実に語っている。
「安全については、大事だということは分かっていたつもりでしたが、今日の見学で、頭で理解するのと、自分の目で見るのは全く違うと感じました。」
「私の仕事は機体を整備する事だと思っていたが、展示を見て説明を聞いて、お客様の安全を守ることだと気が付いた。」
社員の安全への心を耕すというねらいで、「安全啓発センター」の活用の仕方を、一段と工夫してほしい。
「安全啓発センター」は、航空、鉄道、各種産業の技術者たちや研究機関の研究者たちにも、大きな影響を与えつつあることは、そのような人々の訪問が相次いでいること、「ここに来て自分が何のために研究するのか、その原点がわかった」と語る研究者がいたことからもわかる。そういう反響は、センター設立の第1目的でないにしても、日本の安全文化の向上への貢献として大きな意義があると言えよう。
今後は、展示解説を、この展示の意味や教訓をより理解しやすいものにすることや文献・図書の充実などが課題であろう。
3. 意識改革について

高い安全水準をもつ企業となるには、直接安全にかかわる業務のマニュアルを徹底するといった次元の取り組みだけでなく、あらゆる業務分野の経営層、管理層、実務層が主動的、意欲的に仕事に向き合うとともに、乗客・家族の身になって考える「2.5人称の視点」を心の習慣とする必要があることについては、「提言書」で述べたとおりである。その後の経過を見ると、@成田空港における、出発遅れ時の整備士自身によるアナウンス活動、A関西空港における若手社員たちの見送り横断幕「おおきに」活動など、きめ細かい自主活動が芽生えてきたのは、大いに歓迎したい。おそらく、これから各地域・地方に見合った個性的な活動が、知恵の出し合いによって生まれてくるものと予想される。そういう自主活動が組織の活性化と安全意識の向上につながっていくことは確かである。
「2.5人称の視点」を普及させるビデオの製作・配布は評価したい。
4. 安全対策全般について

安全情報の「水平展開」については、1.でも触れたが、企業の統合、グループ化、分社化、委託化といった複雑な組織形態の中では、その取り組みは極めて重要である。この1年半ほどの期間のトラブルの中身を見ると、「水平展開」の重要性を痛感する。複雑な組織形態の場合は、ただ情報を流すだけでなく、どのようにしたら「別組織」にまで浸透させられるか、その方法を工夫・開発する必要があろう。
「確認会話事例集」を速やかに製作・配布したことは、交通機関や各種産業でも前例はなく、高く評価する。もちろん、これはマニュアルとは違い、確認会話の意識と技量を向上させるための、いわば応用問題集であって、本来のヒューマンエラー防止対策が中心にあることは言うまでもない。それでもやはり、このような“副読本”を座右に置くことは有効である。「確認会話事例集」は脳内になじませるほど再読、再々読して、はじめて役立つものである。社員1人1人がそのような利用の仕方をすることを望む。と同時に、今後は、業種別に、より内容を豊富にしたものを編集することが望まれる。
管制との交信は、安全確立の極めて重要な課題である。トラブル事例を見ると乗員側、管制側の双方に様々な問題が潜んでいることがわかる。その克服の一つの道として、乗員と管制官がそれぞれの業務の実際について、きめ細かく理解し合い、円滑な協働関係を築く必要がある。その意味で、乗員と管制官との交流の機会を大幅に増やしたことは、時宜に叶っている。今後は、全国各地でそのような交流、意見交換の機会をできるだけ増やしていくよう努めてほしい。
5. イレギュラー時の組織的な危機対応能力について

成田空港で発生した思いがけない雪害による運航の混乱を教訓に、当日勤務した現場・間接スタッフを集めての「雪害レビューワークショップ」(06.03)は、今後組織的な危機対応能力を高める上で、大いに役立つものと見られる。このような事態は雪害だけでなく、様々な原因によって、どこで発生してもおかしくないと言える。全国の拠点空港ごとに、成田での「雪害レビューワークショップ」のデータを参考に、何らかの想定をしてシミュレーション訓練をすることをすすめたい。
以上、気づいた主な事項について述べました。「提言書」は、各セグメントが自分たちに関係のあるところだけを個別的・縦割り的に受けとめる性格のものではありません。JALグループ全体の主動的な意識改革と企業体質の変革を目指して、提言全体を相互に有機的につながり合ったものとして構成し論述していますので、そのことを十分に理解して、改革に取り組んでいただきたいと思います。

安全とは終わりのない闘いです。厳しい経営状況の中でも、高い安全水準を誇れる企業体になるには、JALグループ全組織の経営層、管理層、実務層の1人1人が「毎日を初心に返って仕事に向かい」「これからが安全確立の本番」との意識を持つことが不可欠であると考えます。企業の体質を変え、縦割り(セグメント)の壁を壊し、意識の改革を実現するには、1年、2年という時間が必要でしょう。一層のご努力を期待します。
以上
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