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大気観測―地球温暖化をもたらす大気変動を調査する
 
私たちは、航空会社だからこそできる社会貢献とは何かを考え、1993年から「地球温暖化をもたらす大気変動のメカニズム」を解明するために、「大気観測」プロジェクトに協力してきました。具体的には、オーストラリアと日本の間を飛ぶボーイング747型機に専用の観測装置を取り付け、高度1万メートル付近の大気を採取して持ち帰り、そこに含まれる温室効果ガス(二酸化炭素、メタンなど)の濃度を測ろう、というものです。私たちは、それ以前にも国内線で大気観測に協力したことがありましたが、国際線の定期便による観測は初めての試みでした。
また、2005年からは、新しい測定器による「新大気観測」が始まりました。それまでは、限られた路線で「大気をフラスコに詰めて持ち帰る」だけでしたが、それに加え、新たに連続して二酸化炭素(CO
2)濃度を測る装置を5機の航空機に取り付け、より広範囲・高頻度でCO2濃度が測れるようになります。今後、何年にもわたってデータが蓄積されれば、CO2の循環や地球温暖化の研究にとって多大な貢献になることでしょう。
「新大気観測」は、世界の研究者が驚く革新的な出来事 国立環境研究所 地球環境研究センター 町田敏暢さん
CO2濃度連続測定装置の模型で説明する
町田先生
2005年から始まった「CO2濃度連続測定装置」による測定は、研究者にとって画期的な4つのメリットがあります。まず「毎日測れること」。つまりデータが頻繁に取れる。第2に「世界各地のCO2濃度が測れること」。第3に、地表から上空まで高さの違いによるCO2の散らばり、つまり「鉛直分布が調べられること」。そして最後に「空間的に連続したデータを取れること」です。
特に3番目の「鉛直分布」が大事で、CO
2の研究にとってはすごく価値がある情報なんですね。ところが、世界中にこのデータがほとんどありません。それが調べられるというのは、私たち研究者にとって革新的な出来事です。地球温暖化の原因は何種類もありますが、その半分以上はCO2の影響ですから、それを調べることが一番大事なんです。
いま、人間が化石燃料を燃やして出したCO
2の約半分が空中にあると言われています。しかし、残り半分がどこに行っているか詳しくはわかっていません。ある部分は海が吸ってくれていて、ある部分は陸上の植物が吸っている。しかし将来的にも同じように吸収してくれるかはわかりません。それを詳しく調べることで地球上のCO2循環の仕組みがわかれば、対策も立てやすくなる、と期待しています。
「産・学・官」共同プロジェクトの調整役として 財団法人日航財団 研究開発センター 岡 孝秀さん

大気観測は、2機のボーイング747-400と3機の777、合計5機に専用の装置を載せて大気を測定するプロジェクトです。一口に装置を積むといっても、実はとても難しいんですね。無駄なスペースのない航空機の中に搭載する場所を確保した上で、安全性を第一に考えてその周辺の補強が必要になります。ですから、非常に大変な機体の改修作業になるわけです。さらに、耐振、耐圧、耐熱、それに電気的な干渉がないかなどの厳しい審査を受けなければなりません。2003年に文部科学省の委託研究資金を受けて「新大気観測」プロジェクトがスタートしたとき、それが最大のハードルになりました。アメリカの連邦航空局(FAA)と日本の航空局が審査するのですが、これが非常に厳しくてなかなかパスしない。最終的に承認が下りたとき、私たちが開発した装置やその設置方法が、同じ型式の航空機に関しては国際的なスタンダードになりました。
研究者は研究者でやりたいことがありますし、民間企業である日本航空側にも機体の改修作業にかかる労力や経費など、それなりの事情があります。その間に立って「産」と「学」の橋渡しをし、さらに研究資金や承認を受ける「官」との窓口になることが、私たち日航財団の役割です。このプロジェクトは、官庁だけでも、研究機関だけでも、もちろん民間企業単独でもできません。それぞれが労力と知恵を出し合い、コストを負担するという強い意気込みがないと達成できない純粋な社会貢献だと思います。
先行して稼動していた3機だけでも、すでに400便分ほどのデータが集まっています。今後残りの2機を含め、運用が軌道に乗れば、年間約3000フライトという膨大なデータが集まってきます。それをどう運用していくかが、これから問われることになるでしょう
観測装置の開発〜航空機搭載というハードルを越えるために ジャムコ 航空機整備カンパニー 東京整備工場 技術課 課長 近藤直人さん/主任 後藤啓太さん 日本航空 整備本部 成田整備事業部 中川由起夫
新大気観測では、自動大気サンプリング装置(ASE)とCO2濃度連続測定装置(CME)という2つの装置を使って観測します。2003年秋、国立環境研究所から装置搭載の依頼を受け、ギャレー(調理室)、ラバトリー(化粧室)などの航空機の内装品や部品の製造・整備を行なうジャムコ社とJALが協力して設計・開発しました。設計にあたり、JALは航空機を運航する立場から、装置に求められる制約条件と搭載方法をジャムコにアドバイスし、ジャムコはこれをもとに研究者からの要求にしたがってFAA(米連邦航空局)や日本の国交省の認証を取得可能な装置を作り上げました。

ジャムコ社の近藤さん(左)と後藤さん(右)
ASEとCMEの開発は2003年の9月にスタートし、1号機の承認が下りたのが2005年の11月ですから、実質的に承認取得まで2年しかかかりませんでした。ASEは旧大気観測ですでにJAL機に搭載していた装置の改良版を作るというお話でしたが、新たに一から作るCMEは環境研究所の町田敏暢先生のオリジナルの設計によるもので、その要望をすべて取り入れるのが大変でした。まずプロトタイプ(試作品)を作るのですが、町田先生の求めている機能や専門的な言葉がよくわからないので、試作品の試作品をいくつも作ってからようやく目的に合ったものができる、という具合でした。このようにして出来上がったものが初めて環境試験にかけられる試作品になります。環境試験では、装置に振動を与えたり、装置周辺の温度を変えたり、通常の航空機内では遭遇しないような過酷な条件下でも、その装置が航空機の安全に影響を及ぼさないことを確認しました。

JAL整備本部の中川由起夫
技術的に大変だったのはEMI試験(電磁波の干渉)です。この試験では装置が出す電磁波のレベルを規定値以下に抑えなければならないのですが、これがなかなか難しいのです。電磁波は、装置の中の電線を通す位置や装置の向きなどによっても強さが違ってきます。さらにCMEには高圧ガス容器を装備しているため、航空機に搭載するための安全基準が非常に厳しいレベルになりました。このように航空機に装置を搭載するためのハードルをいくつも越えてきました。また、開発を始めたころは先生方との認識を合わせるのが難しく、それがつらかったですね。先生方の要望や認識と、私たち開発や整備に携わる者の制約・常識をお互いが理解するのに1年以上かかりました。でも、何度も何度もコミュニケーションを重ね、最終的に高い信頼関係を築き、同じ方向に向くことができたからこそ、非常に完成度の高いプロジェクトになったのだと思います。

※この文は、開発に関わった上記3人の談話を元にまとめました。

「大気観測」についての詳細は財団法人日航財団ホームページをご覧ください。

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