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革新的航空技術
(1)極限設計
(2)省エネルギー型航空機
(3)輸送効率 transport efficiency
1. 空気力学の新技術
(1)層流翼型 laminar(flow)airfoil
(2)翼胴融合考案/翼胴一体化 blended wing-body concept
(3)ウィングレット winglet
(4)層流(境界層)制御 LFC:laminar flow control
2. 推進装置の技術
(1)エンジン要素の改良 ECI:engine component improvement
(2)省エネルギー・エンジン energy efficient engine, E3
(3)次世代技術プロペラ ATP:advanced technology propeller=高速ターボプロップ ATP:advanced turboprops
3. 構造・材料の新技術
(1)複合材料 composite material
(2)加工技術 processing technology
(3)空力弾性的テーラリング aeroelastic tailoring
4. 能動制御の新技術(ATC:active control technology)
(1)静安定緩和 RSS:relaxed static stability
(2)運動荷重軽減/突風荷重軽減 MLC:maneuver load control/GLA:gust load alleviation
(3)フラッター抑制 FS:flutter suppression/AFC:active flutter control
(4)直接揚力・横力制御 DLC:direct lift control, DSC:direct side force control。 両者を合わせてDFC:direct force controlともいう。
(5)構造的モード抑制 SMS:structural mode suppression
(6)CCV:control configured vehicle

 1980〜1990年代を通じて実用化が予想される,高性能の革新的航空機(とくに民間輸送機)開発のために必要とされる技術要素のおもなものは,次のように要約される。これらの大部分はコンピューターの進歩と密接な関係がある。
〈1〉 揚抗比を向上させるための,空気力学の技術
〈2〉 ペイロード率を向上させるための,構造・材料の技術
〈3〉 速度と比燃費との比を向上させるための,エンジンの技術
〈4〉 上記3項目にも有効な,能動制御の技術
〈5〉 自動制御の技術
〈6〉 これらを最適状態にまとめ上げる,設計と工作の技術
〈7〉 安全に飛ぶための,航法と運航の技術
〈8〉 人間工学の進歩による,安全性の向上
〈9〉 航空輸送が社会から受け入れられるような,低公害の技術

(1) 極限設計
 航空機は,つねに時代の先端をゆく技術を,最大限に活用した極限設計によって発達してきたといえよう。ところが近年,航空機の製造にも運航にも費用が高騰する傾向が続き,航空機ユーザーから高経費と高性能のかね合いが論じられるようになった。そこで「ユーザーの要求する性能を充たし,かつ経費をいかに安くできるかを,極限まで追及する設計」に関心が集まるようになった。
 極限設計は,機体の構造・材料,エンジン,装備システムなど,多方面にわたる。航空科学技術の分野でよく唱えられる革新技術も,極限設計と目指すところは同じである。
(2) 省エネルギー型航空機
 1973年の石油ショック以降,燃料経費が直接運航費に占める割合が急激に上昇して1/3を占めるまでになった。長期的に見れば,まだ上昇することは避けられないであろう。
 とくに民間輸送機では,燃料の節減による燃料効率(fuel efficiency,燃料1リッター当たりの乗客数×輸送距離km)の向上は,技術開発の重要な目標となっている。
 さて輸送機の燃料効率は,1960年代の707型機の時代に比べて,現在の777やA340型機は約2.2倍に向上している。
 そこで今後も省エネルギー航空機の研究を進めて,燃料効率をさらに約40%高めることができれば,石油代金は日本で毎年3,000億円,世界で毎年5兆円分を節約することができると期待されている。
(3) 輸送効率(transport efficiency)
 輸送機の経済性の指標として,燃料効率と同じ意味で輸送効率(燃料1kg当たりの乗客数×輸送距離km)が使われている。
輸送効率(km)
=ペイロード(kg)×輸送距離(km)/燃料重量(kg)
=揚抗比×(ペイロード率×(速度/比燃費の比))
 この式から次のことがわかる。
 機体(翼・胴体)の形状を工夫して抗力を減らすか,または抗力を増すことなしに速度を上げることができれば,輸送効率は向上する。また,運航に必要なエネルギーを節減して輸送効率を上げるためには,「21世紀の輸送機」で述べるような諸技術が画期的に進歩しなければならない。

1.空気力学の新技術
 空力分野に関連する設計の革新は,揚抗比の向上,騒音の減少,離着陸機構の改善,能動的操縦機構の改善などが考えられている。これらの研究は,大型高速計算機の理論計算,および計算機と連動した風洞実験や飛行実験の進歩によって,大いに促進された。
(1) 層流翼型(laminar(flow)airfoil)
 翼型を工夫して層流領域を大きくして摩擦抗力を減らす自然層流翼(natural laminar flow wing)が研究されている。
 この原理はかなり以前から知られていたが,近年複合材,アルミ外板研磨板,アルミ外板接着法などが開発されたため,実現の見通しが明るくなった。リアジェット28/29クラスのビジネスジェット機の成功例では,翼の摩擦抗力は従来翼型のおよそ半分になったという。
 このほかに乱流による摩擦抗力を減少させる研究もある。外板表面から少し浮かせて薄い板を取り付けて渦を分割したり,外板表面に(気流方向に)微細な溝を付けて,渦の幅を小さくしようとするものである。これによる抵抗の減少は10〜20%という実験結果があるが,問題はその工作と保守の難しいことで,研究の域を出ていない。(→層流翼型
(2) 翼胴融合考案(翼胴一体化,blended wing-body concept)
 翼・胴・ナセルを組み合わせた状態が,断面積法則に合うように,結合部の周りをなめらかに整形して干渉抗力を減らそうという構想。
 こうすると主翼の付け根部が厚くなるので,構造的に楽になり,翼全体を軽量化でき,表面積に比べて内部容積を大きくできるという余得もある。軍用機の場合は,レーダーの反射を少なくできるという利点もある。すでに米国のF-16,B-1,F-22などの超音速軍用機が採用しているが,今後,亜音速機にも応用されるだろう。
(3) ウィングレット(winglet)
 誘導抗力を減らすには,翼の翼幅(=縦横比)を大きくして,翼端から出る渦の影響を減らすのが有力である。つまり細長い翼にすればよいのだが,高速に耐えるよう翼を丈夫にすると重量が増えて望ましくない。そこで翼長を伸ばす代わりに,翼端に小翼を立てる考案である。これにより翼端渦を上へ移動させて,渦によって誘導される吹き下ろしを小さくし,抗力を減らすことができる。
(4) 層流(境界層)制御(LFC:laminar flow control)
 境界層制御(boundary-layer control, BLC)とは,剥離を防ぎ摩擦抗力を減らすため,境界層の性質を制御すること。これは従来からある高揚力装置ボーテックス・ジェネレーター,ドッグ・ツースなどを含む。
 層流制御翼はさらに積極的な制御方法で,翼表面の乱れた境界層を吸い込みなどによって除き,翼面全体を層流化することにより抵抗を減らす技術である。
 1980年代からNASAで翼(および胴体)の表面を層流制御しようとする実験が進められている。翼外板に小さな穴や隙間をたくさん作り,ここから空気を翼内に吸い込む方式で,従来の翼に比べて抵抗は1/3程度に減るという。
2.推進装置の技術
 次世代エンジンに求められるものは,省エネルギー,低公害に撤した性能・効率・耐久性の格段に良いガスタービン(ターボプロップ,ターボシャフト,ターボファン)エンジンである。
 NASAの航空機省エネルギー(Aircraft energy efficiency, ACEE)計画のなかのエンジン部門では,つぎの3項目が挙げられている。これらは互いに並行して研究が進展しており,亜音速の全範囲にわたり強力な省エネルギー効果が期待できるとされている。
(1) エンジン要素の改良(ECI:engine component improvement)
 従来のエンジンが,使用年数の経過とともに性能が低下するのを抑制する研究。すなわち,ファン,タービンの形状改良,ブレード先端の隙間を最小にする研究,タービン冷却の改良などにより,燃費率を5%向上しようとするものである。
(2) 省エネルギー・エンジン(energy efficient engine, E3
 1980年代後半の実用化を目指し,現在の高バイパス比ターボファンに比べ,燃費率で少なくとも12%の向上を目指す。これは直接運航費を5%以上引き下げることになる。また排気ガスは1981年のEPA基準値以内であること,騒音はFAR36(1969年)より10EPNdB少ないことをも考慮に入れなければならない。
 これはサイクルの高温・高圧化を可能とする高度の材料技術,新型ブレード技術,電子制御技術のそれぞれが明確に向上しないと到達できない。
(3) 次世代技術プロペラ(ATP:advanced technology propeller)=高速ターボプロップ(ATP:advanced turboprops)
 新しい低騒音ファンエンジン技術と,プロペラ技術の組み合わせにより,従来のターボプロップエンジンの速度限界を超えるもの。マッハ0.8までの高亜音速領域での高い推進効率を生かして,燃費率で約30%の向上を目指した。
 具体的には,プロペラ・ブレードに複合材料を使い,ブレード先端部断面の厚みを2%以下にする(従来は約4%)。ブレードに後退角をつける。ブレード翼断面をスーパークリチカル翼型とするなどの研究開発である。
 この計画は1990年代初期の実用化を目標としたが,燃料価格の安定により投資効果が薄れ,開発は進んでいない。また,次の4つの未知項目も解明しなければならない。ブレードとギアボックスの最適設計,プロペラとナセルの相互干渉,プロペラ後流の影響,機内の騒音影響。(→高速ターボプロップ・エンジン
3.構造・材料の新技術
 航空機用材料の新しい動向のなかでは,複合材料と加工技術が注目されている。燃料節約と輸送効率向上には,機体構造の軽量化が効果的だからである。そのため比強度・比剛性・靭性が高く,長く疲労に耐える材料(複合材,セラミック材,結晶構造材)の開発と利用が強く期待されているのである。
(1) 複合材料(composite material)
 いま研究されている複合材料は,エポキシ,ポリアミド,アルミニウムを基礎材(matrix)とし,ガラス,ボロン,グラファイトを強化繊維(filament)とする薄いシートで,これを数段に積層するものである。
 複合材料は,すでに航空機の二次的構造部材(例:動翼外板)から,中規模基礎構造部材(例:777の水平尾翼,垂直尾翼)まで使われている。一次構造部材(例:主翼,胴体の主要強度を受け持つ部材)への使用については,一部を除いては完全な実用化には至っていない。
 今後,成形法,非破壊検査法,損傷許容設計の進歩により信頼性が解明されれば,全面的に使用される日も遠くないと思われる。これは,航空機に軽合金が使われるようになって以来の大きな革新である。
(2) 加工技術(processing technology)
 航空機用材料の新しい発展を導くものとして,加工技術の発達も見落とせない。
 注目されているものには,結晶制御技術,粉末冶金技術,メカニカル・アロイイング,超塑性加工法などがある。
 新素材の開発と新加工技術の進歩は,表裏一体のもので,これは航空機工業ばかりでなく,機械・応用化学・冶金関連の諸工業の発展に期待されるところが大きい。
(3) 空力弾性的テーラリング(aeroelastic tailoring)
 複合材料のシートの繊維の方向をうまく選ぶことにより,ある方向の曲げには強く,ある方向には変形し易いといったような,設計者の望む性質を与えることが可能となる。これをテーラリング(あつらえる意)という。
 これは,金属がどの方向にもほぼ一様な強さや剛性をもつのとは大きく違う。したがって複合材料で翼の構造を設計する場合,翼面に望みの強さや剛性を,材料によって調達することも可能となる。さらに翼にかかる空気力の変化に応じて,翼面が空力的に最も効率のよい形に自動的に反ったり,捩れたりするような設計と工作法を調製することも可能となる。近い将来,複合材料は,空力弾性的テーラリングの技術と連結されたときに,その真価を発揮することになるだろう。
4.能動制御の新技術(ATC:active control technology)
 自動制御の知識とコンピューター技術の進歩により,飛行性を積極的に制御しようという研究が,各国で進められている。
(1) 静安定緩和(RSS:relaxed static stability)
 航空機の固有安定性を緩めて,尾翼面積を機体の姿勢保持に最小限度必要な大きさにまで縮小する。
(2) 運動荷重軽減/突風荷重軽減(MLC:maneuver load control/GLA:gust load alleviation)
 飛行中の旋回または突風によって,主翼付け根にかかる曲げモーメントを減少させるために,自動的に外翼部の補助翼を同時に上げて主翼に働く揚力分布を内翼側に移行させる。
(3) フラッター抑制(FS:flutter suppression/AFC:active flutter control)
 フラッターが発生したとき,補助翼やフラップを作動させて,積極的にフラッターを抑える。
 GLAとAFCによる荷重制御技術が進むと,翼構造の軽量化と縦横比の増大がやりやすくなる。
(4) 直接揚力・横力制御(DLC:direct lift control, DSC:direct side force control)(両者を合わせて直接操縦翼面制御DFC:direct force controlともいう)
 従来の航空機の主操縦翼面(補助翼・方向舵・昇降舵)は,本質的には姿勢制御の機能を持つにすぎない。したがって飛行経路角を制御する場合は遅れを伴う。そこで三舵とは別の新しい操縦翼面を設け,機体の経路角と姿勢角を独立に制御しようとする操縦機構が考えられる。この機構と従来の三舵を併用することにより,遅れを減らし,経路角の応答特性を向上させ,運動性と離着陸時の安全性を高めることができる。DLCはすでに一部の大型旅客機で実用化されている。
(5) 構造的モード抑制(SMS:structural mode suppression)
 航空機が大型化するにつれ機体構造の剛性は低下する。そして減衰率の悪い振動が機体各部に起こり,疲労寿命に影響をおよぼす。これを防止するため機体各部にセンサーを取り付けて振動を検出する。それに対応する操縦翼を働かせて,構造的な振動を減衰させ,疲労寿命を延長させる。
 ここに挙げた5種の能動制御方法は,軍用機では戦闘能力の向上,民間機では経済性,安全性の向上に寄与するもので,今後の開発機種に欠かせないものとなるだろう。しかし,航空機の空力的な安全性,構造上の強度を自動システムで肩代わりさせようとするものだけに,完全に実用にするには充分な信頼性が要求される。したがって民間機への適用は,安全性の立証されたシステムから徐々に行われるだろう。
 上記の能動制御が全部実施されれば,総重量の15%程度の重量軽減ができるといわれている。
(6) CCV(control configured vehicle)
 直訳すれば,制御本位の航空機。従来の航空機は,空力的見地・機体構造・推進の3方面から検討し,予備実験の結果に基づいて設計されており,安定操縦性に対する制御は,設計企画当初の必要条件とはなっていなかった。しかし近年になってエレクトロニクス技術の進歩とフライバイワイヤ操縦システムの発達により,航空機設計の第一条件として制御という見地を加え,トータルシステムとして企画することが可能となった。上記5種の能動制御を主体に設計される機体をCCVという。
 CCVと能動制御とは表裏一体のものであり,この成果としては,機体の空気抵抗の軽減,機体構造の余分な強度と重量の軽減,空力荷重のかかり方の適正化,乗り心地の改善,運動性や飛行性能の改善などが実現されるだろう。
 これにより燃料費の節約,機体の疲労寿命の延長,離着陸時の安全性向上につながるものと期待されている。
三菱T-2CCV運動能力向上実験機

 
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