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飛行機に働く力 basic forces;lift, drag, thrust
1. 揚力と抗力
(1)揚力 lift
(2)抗力 drag
a.誘導抗力 induced drag
b.有害抗力 parasite drag
c.形状抗力 profile drag
d.干渉抗力 interference drag
e.造波抗力 wave drag
(3)揚抗比 lift-drag ratio
2. 迎え角
(1)迎え角 angle of attack
(2)零揚力角 zero-lift angle
3. 失速 stall
(1)翼端失速 tip stall
(2)バフェット buffet
4. 関連用語
1.揚力と抗力
 空中を飛ぶ飛行機にも地球の重力が作用するが,飛行機が落ちないのは,主翼に上向きの力,つまり揚力が働いているからである。ただし,飛行機が空中を航行するには,前進に対抗する空気の力,つまり抗力にさからってプロペラやジェットで機体を推進させ,常に飛行機が前進して翼に空気流を作り出していないと揚力が発生しない。
(1) 揚力(lift)
 翼が空気中を進行すると,周囲の空気は翼に沿って流れる。ふつう翼断面は,下面より上面のふくらみが大きいので,翼面の空気流速は,下面より上面の方が大きく加速される。この傾向は,迎え角(α)が増すほど著しくなる。空気の圧力は,流速が速くなるほど小さくなり,逆に流速が遅くなるほど大きくなるので,通常,翼表面では,下面の圧力が上面の圧力より大きくなり,全体として翼は,図1-2-1のように上向きの空気力を受けることになる。この空気力の,飛行方向に垂直な方向の成分を揚力と呼び,飛行機が空中を飛行できるのは,機体の重量に等しい揚力を翼で発生し,重力(weight)と上下方向の力のバランスを保っているからである。
 一方,図1-2-3のように流体に対して物体が静止している場合に作用する力は浮力と呼ばれ,揚力と区別される。たとえば,ふつうの船は,浮力で船体の重量を支えているが,走行中の水中翼船は,水中にある翼に生じる揚力でその重量を支えている。
図1-2-1 翼表面の圧力分布
図1-2-3 浮力
(2) 抗力(drag)
 揚力の解説の中で,翼に働く空気力の,飛行方向に平行な成分を抗力(または抵抗)と呼ぶ。抗力は飛行機を減速させる方向に作用する力なので,飛行を継続するためには,抗力に打ち勝って前進させる力,すなわち推力(thrust)が必要で,推力はエンジンまたはプロペラにより得られる。抗力を発生形態から分類すると,誘導抗力と有害抗力に分けられる。また,遷音速および超音速のときは,衝撃波による造波抗力が加わる。
図1-2-2 抗力
a. 誘導抗力(induced drag)
 揚力の項で説明したように,翼の上面側に負圧が,下面側に正圧が生ずることにより,翼端部では,翼上下面の圧力差によって下面から上面に向かって流れる渦(翼端渦という)が生じる。この渦は,翼まわりに飛行方向とは異なった気流を誘起し,翼に当たる気流の向きを下げる方向,すなわち翼の迎え角を減少させる方向に作用する。その結果,翼に作用する空気力の方向は,迎え角の減少分に相当する角度(誘導迎え角)だけ後方に傾くことになるが,このうち飛行方向に平行な成分は実際上は抗力として働くことになる。これが誘導抗力(あるいは誘導抵抗)である。
 誘導抗力は,翼が揚力を発生している限り,その発生を避けることができない抗力であり,翼端があるために生じる抗力であるから,翼弦長に対して翼幅を大きくするなど,翼端の影響をできる限り小さくしてやれば誘導抗力を小さくすることができる。この誘導抗力を小さくすれば全体として抗力も減少し,その結果,揚抗比が増加するので必要推力または必要馬力が軽減でき,燃料消費量が減ることによって航続性能が向上する。そのため,航続性能を重視する民間輸送機などでは,細長い翼,すなわちアスペクト比の大きな翼を採用するのがふつうである。
図1-2-4 誘導抗力
b. 有害抗力(parasite drag)
 揚力を発生させるために,どうしても避けられない抗力,すなわち誘導抗力,および衝撃波による造波抗力を除いたすべての抗力を総称して有害抗力(あるいは有害抵抗)という。有害抗力はさらに,形状抗力と干渉抗力とに分けることができる。
c. 形状抗力(profile drag)
 抗力のうち,物体の形状にのみ依存して変化する抗力を形状抗力(あるいは形状抵抗)という。形状抗力は,物体まわりの空気が剥れ,後方に渦を作り圧力が低下することによって物体を後方に引っ張ろうとする圧力抗力と,物体表面に付着して流れる空気の摩擦によって生じる摩擦抗力とに分けることができる。
 なお,翼型の場合の形状抗力は,特に翼型抗力と呼ばれている。
d. 干渉抗力(interference drag)
 ある物体まわりの空気の流れは,傍に別の物体を持ってくることによって影響を受け,流れの様子が変化するとともに,そこに作用する空気力も全く変わってしまう。この現象を干渉と呼び,干渉によって生じる抗力を干渉抗力(あるいは干渉抵抗)という。たとえば,胴体と主翼とを組み合わせて空気流中に置くと,これに作用する抗力は干渉により,胴体,主翼それぞれ単独の形状抗力を加えた抗力よりも大きくなる。しかし干渉抗力は,干渉によって生じる局部的で不規則な流れの発生を防止すれば減少させることができ,そのために胴体と主翼との結合部などには,流れをスムーズにするためのフィレット(fillet)が取り付けられていることが多い。
e. 造波抗力(wave drag)
 遷音速や超音速の速度領域では,流体(ここでは空気)の粘性や流れの剥離によって抗力が生じる。これは衝撃波の発生によって,その後方の気流の流速の低下や運動量の損失を生じた結果であり,船が水面に波を立てて進む状態と似ているので,造波抗力または造波抵抗という。
(3) 揚抗比(lift-drag ratio)
 飛行機が定速で飛行しているときの前後,上下方向の力の釣り合いを考えると,図1-2-5(左)のように,揚力=機体重量,また,エンジンの推力=抗力となる。ところが翼が発生する揚力は,抗力に比べて非常に大きいので,ある重量の機体を飛行させるのに要する推力は非常に小さくてすむことになる。この程度を示す値が揚抗比であり,揚力と抗力との比,あるいは揚力係数と抗力係数との比である。この値は,長距離を飛行する民間輸送機などの性能を比較する場合の非常に重要な要素の一つである。通常のジェット輸送機では,この値は巡航状態で約18であり,この場合,重量Wの機体を飛行させるのに要する推力は,重量Wの1/18でよいことになる。なお,これに比べて図1-2-5(右)のように,飛行機を推力のみで上下方向に釣り合わせようとすると,それに要する推力は重量に等しくなければならない。
図1-2-5 揚抗比
2.迎え角
(1) 迎え角(angle of attack)
 翼に当たる気流と翼弦線とのなす角,すなわち飛行機の進行方向と翼弦線とがなす角である(図1-2-6)。ここで注意を要するのは,迎え角は,水平面に対する機体の姿勢とは無関係なことである。迎え角は,翼の特性を表示する場合の基準となる角度であり,揚力係数,抗力係数などはすべて迎え角の関数として表される。
図1-2-6 迎え角
迎え角を働かせて離陸する747
(2) 零揚力角(zero-lift angle)
 通常のキャンバーを持った翼型では,迎え角が0°になっても翼の反りによって上面側の気流が加速され,揚力が発生する。この場合,揚力つまり揚力係数が0になるのは,翼が負のある迎え角を持ったときであり,このときの迎え角を零揚力角という。したがってキャンバーのない対称翼では零揚力角は0°であり,また逆のキャンバーを持った翼型では,零揚力角は正のある迎え角となる。
図1-2-7 キャンバーと揚力係数
3.失速(stall)
 揚力は,飛行速度が大きいほど,また揚力係数が大きいほど増加するので,飛行速度を小さくしたい場合は,速度の減少分を補うに足りる大きな揚力係数が主翼で得られないと,上下方向の力の釣り合いがとれず,飛行機は高度を失う結果となる。そのため,低速で飛行するときは,主翼の迎え角を大きくし,揚力係数を増加させなければならない。ところが,迎え角をある角度以上に増すと,図1-2-89のように,翼の上面に沿って流れる気流が乱れ始め,ついには翼表面から剥れてしまう。このように気流が剥れると,それ以上迎え角を増しても得られる揚力係数は逆に減少し,かえって抗力係数が著しく増大し始めるという現象が起こる。この現象を失速と呼び,また失速を起こすときの迎え角を失速迎え角(stalling angle)という。
 ここで,失速は翼全体が同時に失速するわけでなく,翼の一部が失速し始めたのち失速域が徐々に広がり,ついには翼全体が完全に失速状態に陥るという過程がある。翼の一部が失速することによって発生する機体の振動,すなわち,バフェットを感じた時点で失速からの回復操作を開始すれば,失速を回避することができる。特に民間ジェット輸送機の場合は,失速特性は極めて良好であり,突風を受けるなどで失速を起こし始めても自然に機首が下がり,加速することによって失速から回復するように空力的な設計がなされている。また,何らかの原因で完全な失速を起こしても,機首を下げ,同時にエンジンの出力を増して,機体を加速してやれば,直ちに失速から回復することができる。ただし,この回復操作の間に高度を失うので,地面近くを飛行しているときに失速を起こすと危険な状態に陥ることが考えられる。したがって,低高度を飛行するときの速度,つまり離陸速度,着陸速度などは,飛行機が失速するときの速度,すなわち失速速度(stall speed)に対して安全を考慮した値に定められており,何らかの理由で速度が減少した場合でも,失速に対する十分な余裕が与えられている。
 このように,失速速度は離陸速度,着陸速度などを決定するときの基準となる重要な速度であり,この速度が小さいほど,離陸速度,着陸速度も小さくできるところから,短い滑走路で離着陸できるなど,離着陸性能を向上できる。最大揚力係数を増してやれば失速速度を小さくすることができ,離着陸性能の向上が期待できるが,この最大揚力係数を増加させる方法として,後縁フラップ,前縁フラップ,スラットなどの高揚力装置が使用される。
 最近の民間ジェット輸送機のように,翼の設計が非常に洗練されている機体においては,バフェットが発生する速度と,失速速度との差がかなり小さい場合が多く,このような機体では,操縦士が気付かないうちに失速が起こり始めることがあり得るので,これを防止するため,飛行機が,失速速度に近い速度まで減速した場合には,人工的に警報を発するような失速警報装置(stall warning system)が取り付けられているのがふつうである。
図1-2-8 縦横比6のクラークY翼型のCL,CDの迎え角に対する変化
図1-2-9 失速
(1) 翼端失速(tip stall)
 翼端に近い部分から失速することを特に翼端失速と呼び,後退角が大きい翼やテーパー比の大きい翼では翼端失速を起こしやすい。飛行機が翼端失速を起こすと,横安定が悪化するとともに,後退翼の機体では縦安定も悪くなり,危険な状態に陥ることもある。これは翼端失速を起こすと,翼全体としての揚力の作用点が前方に移動するため,図1-2-10のように機首上げモーメントを生じ飛行機はピッチアップとなり,失速を促進するためである。これらを防止するため,民間輸送機では,翼端部の前縁にスラットや前縁フラップを設ける,翼型を翼端に向かって失速を起こしにくい形状のものに変化させる,あるいは翼の取り付け角を翼端に向かって小さくする,いわゆる捩り下げを付けるなどの対策を講じることによって,失速が翼の付け根部から始まるように設計されている。
図1-2-10 翼端失速
(2) バフェット(buffet)
 飛行中の機体に生ずる振動の一種。原因は大別して,低速,大迎え角で飛行しているときに翼が部分的に失速し始め,それによって生じる渦を伴った気流が尾翼に当たり振動を起こす場合と,ジェット機が高速,小迎え角で飛行しているときに衝撃波によって境界層が剥れ,低速飛行時の失速と同様に,機体に振動を起こさせる場合の2種類に分けられる。バフェッティングは,このように低速でも高速でも発生することがあり,また飛行高度が変化しても発生の様子が異なってくるので,飛行機の巡航速度および巡航高度の定める場合に考慮すべき重要な要素の一つである。(→フラッター
4.関連用語
滑空比(glide ratio)
 航空機がある高さから滑空しある地点まで達したとするとき,高さhと水平距離dとの比d/hをいう。これは揚力係数CLと抗力係数CDの比,つまり揚抗比に等しい。
捩り下げ(wash-out)
 翼の迎え角を,付け根から翼端に向かって減少するように変化させること。翼付け根と翼端の取り付け角の差でその量を示す。翼端失速を防止する手段の一つである。
吹き下ろし(downwash)
 翼のまわりを流れる気流は,迎え角や翼の反りによって翼の後ろでは下向きとなる。この下向きの気流を「吹き下ろし」または洗流という。
面積法則,断面積法則(area rule)
 翼と胴体とを組み合わせたものの抵抗は,それと同じ断面積分布を持つ回転体の抵抗に等しい,という法則。遷音速以上の速度領域での飛行機の抵抗の減少を図るため,翼と胴体とを別個に考えずに総合したものとして扱い,干渉抗力の減少に成功したもの。断面積の取り方は,遷音速では胴体軸線に直角,超音速ではマッハ角の頂角に合わせて取った断面とする。この法則による設計の飛行機では,胴体の外形が,翼を取り付けてある部分で,翼の断面積分だけ細くなりくびれた形を表すようになる。また全長も若干長くなる。1952年,NASAのウイットコム技師によって発見された。
ウィングレット(winglet)
 飛行中の主翼の両翼端では下面の正圧が上面に出ようとするため渦を生じ,飛行機はこの渦を引っ張りながら飛ぶために誘導抗力を生じる。そこで主翼端にほぼ垂直に小板を取り付けて誘導抗力の減少を図ることが1930年に考えられていたが,大型機の燃料消費の効率化を目指して1970年NASAのウイットコム技師が洗練化した翼端板を考案し,ウィングレットと名付けた。形状は後退角をもつ小翼が,翼端の上方に大きく下方に小さくでっぱり,ちょうど主翼に小さな垂直安定板を取り付けた感じである。誘導抗力の減少は翼端を延長して縦横比を増すことでも達成できるが,翼付け根の曲げモーメントも増すため構造を強くする必要がある。ウィングレットはそのような心配はなく,重量増もわずかですむことが最大のメリットである。すでにエアバスA340,747-400,MD-11等でウィングレットが取り付けられている。MD-11の場合,マッハ数0.82の巡航時の抗力減少は3.6%と魅力のあるデータが示されている。
図1-2-11 ウィングレットが生まれるまで
MD-11の主翼に設けられたウィングレット

 
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