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損傷許容設計 damage tolerance design
(1) 背景
(2) 補足構造検査要目 SID:supplemental inspection document
(3) 損傷許容設計 damage tolerance design

 民間輸送機の構造設計の基本思想として「フェイルセーフ」と「セーフライフ」の二つがあることを「機体全般」の項で解説したが,その後第1世代のジェット輸送機の“高齢化”とともに設計寿命と安全性との関係が見直され,損傷許容設計の考え方が生まれるに至った。

(1)背景
 第1世代ジェット輸送機といわれる707やDC-8が運航開始後10年を超えた1976年,英国航空局(CAA:Civil Aviation Authority)は自国の耐空性基準を見直す調査研究を開始し,一方,1977年3月に米国で開催された「構造疲労の規定に係わる会議」で,連邦航空局(FAA)は民間輸送機の構造疲労に対する強度の証明に関する規定に,損傷許容設計の考え方を導入する改定案を提出した。
 このような動向の中で,1977年5月14日,ザンビアのルサカに着陸進入中の英国ダン・エア所属の707-321C型機の右側水平安定板と昇降舵が脱落し,同機は機首を下げたまま地上に激突炎上する事故が発生した。この機体の総飛行時間は47,621時間,離着陸回数が16,723回で,事故原因は右水平安定板の後桁の上部桁型材(spar cap)の金属疲労と不適切なフェイルセーフ設計にあることが判明したのである。すなわち同機は事故以前にすでに上部桁型材にクラックが存在しており,検知されぬまま約7,200回飛行し,その間にクラックが成長するに伴って後桁のウエブと下部桁型材にオーバーロードが働き,フェイルセーフ構造部材であるはずの中央桁型材とともに致命的な二次的破壊を生じたのであった。
(2)補足構造検査要目(SID:supplemental inspection document)
 上記事故のあった翌月,一斉に実施された検査により,707-300系列の521機のうち,38機の水平安定板後桁にクラックが発見され,直ちに必要な処置がとられた。また既発行のボーイング社による整備計画指示書も改定され,内部から行う後桁の検査間隔が短縮された。これらの経験をふまえてボーイング社は707/720の構造・強度を「損傷許容」の考え方から再評価し,特に高稼働機を対象とした必要な追加検査項目を加えた補足構造検査要目を1979年3月に完成して運航会社に指示している。
 一方,ダグラス社は1976年4月に高稼働のDC-8を対象とした構造検査プログラム(SIDと等価のもの)を運航会社に指示しており,ユナイテッド航空や日本航空ではこのプログラムに自社の経験を加味した独自のDC-8長期対策を設定した。他社においても同様な処置がとられ,運航騒音対策により低ノイズ・エンジンに交換された約100機を含む計240機のDC-8フリート(この中に設計寿命の2倍に達した機体もある)には重大な構造疲労の問題は生じていないことが確認された。
 なおDC-10に対するSIDは1989年初頭に発行された。
 747の経年機(1万飛行回数を超えるもの)を対象としたSIDには計87の追加検査項目が設定され,ボーイング社より1983年8月に発行され1984年11月にFAAはこれを耐空性改善通報として取り上げ,1年以内に運航各社が整備プログラムとして設定し実施するように指示した。
(3)損傷許容設計(damage tolerance design)
 前記の構造疲労に対する強度の証明に損傷許容の考え方を導入するFAAの提案は,1978年12月1日付で連邦航空規則の改定により実現し,同年月日以降に型式審査される飛行機(767,757,MD-11,777)に適用されることになった。わが国でも昭和58年4月以降適用となり,英国やカナダなどの諸外国でも同様な考え方がすでに採用されている。主な改定内容は以下のとおりである。
〈1〉 証明に際して,従来はセーフライフとフェイルセーフが同等に取り扱われていたが,基本構造はフェイルセーフとし,フェイルセーフが非現実的な場合のみセーフライフを適用してよい。ただし容易に点検ができないような部位にフェイルセーフ設計を適用するのは適当でない。
〈2〉 損傷許容設計の考え方を導入し,疲労クラックの進行速度,発生箇所および点検方法を検討する。具体的には,多重荷重伝達の場合はもちろん,単一荷重伝達の場合に対してもクラック進行を遅くするか,もしくはクラック進行をとどめ,点検により発見されるまではクラックがあっても残存強度が十分あるように設計する。
〈3〉 通常の構造疲労破壊によらない損傷(例:鳥衝突,プロペラまたはファンブレードの切断)が生じた場合でも,その飛行を続行できる残存強度を有すること。
〈4〉 損傷許容を評価するための検討には,疲労,腐食または突発事象により起こり得る損傷箇所とモードの特定を含んでいなければならない。さらに,この特定は実験結果に基づく解析,および可能ならば運航経験に基づいて行われなければならない。
 損傷許容設計の概念をわかりやすくするため,この設計による構造強度の経年変化を図1-3-24に示す。すなわち,通常の運航荷重が下位にあり,その上方にフェイルセーフ荷重に耐える能力を常に持っていることが要求される。ただし終極荷重に耐える能力は,もし検知されない損傷があると図1-3-24の曲線のように経年劣化するが,損傷をある期間内に検知し修復すれば鋸歯状カーブのパターンで維持される。
図1-3-24 損傷許容設計による構造強度

 
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