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エンジンと動力装置 engine & powerplant
1. タービン・エンジン turbine engine
〔概要 summary〕
〔分類 classification〕
(1)ターボジェット・エンジン turbojet engine
(2)ターボファン・エンジン turbofan engine
(3)ターボプロップ・エンジン turboprop engine
(4)ターボシャフト・エンジン turboshaft engine
(5)次世代エンジン next-generation engine
a.新型ターボファン・エンジン advanced turbofan engine
b.高速ターボプロップ・エンジン ATP:advanced turboprop engine
c.ギヤードファン・エンジン geared fan engine
〔構造と働き engine construction〕
●コア・エンジン core engine
●ホットセクション hot section
●エンジン内部の流れ internal airflow
●モジュール構造 modular construction
●エンジンの回転方向 direction of rotation
(1)コンプレッサー compressor
a.遠心コンプレッサー centrifugal compressor
b.軸流コンプレッサー axial-flow compressor
c.コンプレッサー・ストール compressor stall
●抽気 air bleed
●多軸 multi-spool
●可変ステーター variable stator
d.ファン fan
(2)燃焼室 combustion chamber, burner
a.カン型 can type
b.アニュラー型 annular type
c.カニュラー型 cannular type
(3)タービン turbine
a.軸流タービン axial-flow turbine
b.タービンの冷却 cooling of turbine
●対流冷却 convection cooling
●衝突冷却 impingement cooling
●気膜冷却 film cooling
●浸出冷却 transpiration cooling
c.アクティブ・クリアランス・コントロール active clearance control
(4)FADEC full authority digital electronic control
a.FADECの概要
〔性能 performance〕
(1)推力 thrust
(2)推力に影響する外的要因 ambient effect for thrust
(3)推力と馬力の関係 thrust vs. horsepower
a.推力馬力 THP:thrust horsepower
b.相当軸馬力 ESHP:equivalent shaft horsepower
(4)効率 efficiency
a.熱効率 thermal efficiency
b.推進効率 propulsive efficiency
c.総合効率 overall efficiency
(5)定格と出力操作 rating & power management
a.離陸定格 take-off rating
b.最大連続定格 maximum continuous rating
c.最大上昇定格 maximum climb rating
d.最大巡航定格 maximum cruise rating
e.微速 idle
f.出力操作 power management
2. ラムジェットとパルスジェット・エンジン ramjet & pulsejet engine
(1)ラムジェット・エンジン ramjet engine
(2)パルスジェット・エンジン pulsejet engine
3. ピストン・エンジン piston engine
4. プロペラ propeller
(1)固定ピッチ・プロペラ fixed-pitch propeller
(2)可変ピッチ・プロペラ variable-pitch propeller
5. 補助動力装置 APU:auxiliary power unit
6. 燃料 fuel
(1)ジェット燃料 jet fuel
(2)航空ガソリン aviation gasoline
7. 航空機公害 aircraft noise & air pollution
〔騒音 noise〕
(1)騒音の単位と騒音コンター noise level & noise contour
a.感覚騒音レベル PNL:perceived noise level
b.実効感覚騒音レベル EPNL:effective perceived noise level
c.加重等価平均騒音レベル WECPNL:weighted equivalent continuous perceived noise level
d.騒音コンター noise contour
(2)騒音規制 noise regulation
a.米国 FAR 36 standard
b.ICAO annex 16 standard
c.航空法第20条
(3)騒音対策 acoustical technology
a.エンジン騒音 engine noise
●消音材,吸音材 sound absorbing material, noise reduction material
●消音装置 noise suppressor
b.空力騒音 aerodynamic noise
c.運航方法の改善 improvement of flight operation
●パワー・カットバック方式 power cutback departure
●2段階進入方式 two-segment approach
〔大気汚染 air pollution〕
(1)米国EPA規制 EPA regulation
a.排煙(すす) smoke emission
b.汚染ガス exhaust pollution
(2)ICAOの規制 ICAO regulation
(3)日本の排出ガス規制
(4)クリーン・エンジン
8. 関連用語
 航空機の推進力(または推力,thrust)を得る手段としては,プロペラで大量の空気を吹き出して加速する反作用を利用する方法と,単にエンジンの排出ガスをずっと高速で噴出し,その反作用を利用する方法とがあり,ピストン・エンジンが前者を,ターボジェット・エンジンが後者を代表している。しかし両者を折衷した形として,タービンでプロペラを回すターボプロップ・エンジンや,ヘリコプターのローターを回すターボシャフト・エンジンも広く使われている。
 次にターボジェット・エンジンとターボプロップ・エンジンの中間の性能をねらったターボファン・エンジンがあり,効率がよいこともあって,たちまちのうちに航空エンジンの中で重要な地位を占めるに至った。このあと最近はさらに,ターボファン・エンジンとターボプロップ・エンジンを折衷した新型ターボプロップ(advanced turboprop, ATP)やギヤードファン(geared fan)といったエンジンの開発が進められており,近い将来の完成が期待されている。以上の他ごく限られた用途向けに,ラムジェットとパルスジェット・エンジンがある(図1-6-1)。
図1-6-1 航空エンジンの分類
1.タービン・エンジン(turbine engine)

〔概要 summary〕 
 航空用タービン・エンジンは同じ出力に相当するプロペラとエンジンの組み合わせに比べると,吸い込む空気量は少ないが,燃料の燃焼によって生じたガスをきわめて高速で噴出させることで,直接に推力もしくは軸出力を取り出す種類の内燃機関である。エンジンはコンプレッサーと燃焼室およびタービンの三つのコンポーネントが核となる。
 吸入した空気をコンプレッサーでまず圧縮し,これに燃料を吹き込んで燃焼させ,生じた高温,高圧のガスでタービンを回転させる。このあとなお有効エネルギーを持つガスを,排気ノズル(tail nozzle)から運動のエネルギーの形で噴出させ推力が得られる。タービンを動かすのはこの回転力でコンプレッサーを回すためである。
 このようにタービン・エンジンは原理的にはきわめて明確・簡明で,空気や燃焼ガスの流れに断続がなく,しかもピストン・エンジンでは手の届かぬ高速特性を持っている。
 着想は古くからあり,また蒸気タービンが早くから実用されていたにもかかわらず,ガスタービン・エンジンの実現が遅れたのは,一口にいって効率の良いコンプレッサーと,高温に耐える超耐熱合金(superalloy)が得られなかったことによる。
 これらの問題に解決の曙光をみたのは第二次大戦の始まる直前であった。世界最初のジェット飛行は,1939年8月27日,ドイツのHeS-3bターボジェット・エンジン(推力500kg)を積んだハインケルHe-178試作機で実現した。その後,軍用機向けの利用にドイツとイギリスがしのぎを削ったが,実用化に漕ぎ付けたのはともに大戦末期の1944〜45年とされている。
 戦後,タービン機はまず軍用の面で急速に普及した。タービン・エンジンが民間航空に導入されたのは1952年5月に就航したデハビランド・コメットI型旅客機で,エンジンはGhost型ターボジェット(推力2,270kg)であった。翌1953年には,やや低速をねらったターボプロップ・エンジン(3,200ESHP)機が就航している。
 1960年代に入る頃,より高い効率を目指したターボファン・エンジン(推力6〜8t)が導入された(図1-6-2)。ターボファン・エンジンの進歩改良は目ざましく1970年代に入ると,第2世代として大型・高バイパス比で推力20tを超えるものさえ出現した。こうした強力エンジンの実用化は,いわゆる大量・高速輸送時代の幕開けとなったが,ファン・エンジンはなおも高性能化と高効率化を目指して洗練されつつある(図1-6-3)。また今世紀中の実現を予想されるものにATPやギヤードファン・エンジンなどがある。
 このようにタービン・エンジンは今や,ピストン・エンジンでは到底得られぬ大きな出力を発揮して,高速飛行を日常のものとした。また小型・軽量で済むうえ,始動も容易で暖機運転はほとんど不要,耐久性や信頼性にも優れ,燃料はガソリンよりも安価であり,アフターバーナーを併用すれば超音速飛行も可能,という多くの利点を背景に,出現以来10数年で確固たる地位を築いたということができる。

図1-6-2 初期のターボファン(JT3D)
図1-6-3 ターボファン(Tay)

〔分類 classification〕
 航空用タービン・エンジンは図1-6-1に示したとおり,5種類に分けられるが,以下その各々について説明しよう。
(1) ターボジェット・エンジン(turbojet engine)
 タービンの軸出力をすべてコンプレッサーの駆動に消費し,エンジンの出す推力の100%を排気の持つ運動のエネルギーによっているもので(図1-6-4.A),初期のタービン・エンジンはほとんどがこのターボジェットで占められていた。しかし飛行速度に比べて,きわめて高速の排気ガスを噴出させて推力を得るため,音速以上の飛行では優れた性能を示すものの,亜音速飛行では燃料消費率や推進効率で他に劣ることと,排気騒音が大きいなどの欠点から,現在,使途は主として軍用機に限られている。
図1-6-4 タービン・エンジンの4種
(2) ターボファン・エンジン(turbofan engine)
 推力に利用できる排気の運動のエネルギーの一部または大部分を用いて,追加されたタービンでファン(一種の風車)を回すもので(図1-6-4.B),この結果,排気ガスの噴流速度は減少するが,ファンを含む全体の空気流量は増してエンジンの推力が増加する。コンプレッサーの圧力比を増し,これに見合ったタービン入り口温度とすることで,同一燃料消費量のターボジェットに比べて,推力が増し排気の平均速度が下がるため,推進効率が増加し排気騒音も低くなるなど,利点の多い型式である。
 燃料に使う空気の重量とファンから吹き出す空気重量との比をバイパス比(bypass ratio)という。出現当時(1960年頃)のファン・エンジンはバイパス比が1:0.5〜1.3程度,推力は10t以下であった。コンウェイ,JT3D,JT8Dなどがこれで,今日,第1世代のターボファンと呼ばれているが,航空エンジンとしての王座は,後に現れるより高いバイパス比の第2世代ファン・エンジンに奪われてしまった。
 第2世代のファン・エンジンが実用化されたのは,より高いタービン入り口温度を可能にした新技術が引き金となったもので,1970年前後のことである。JT9D,CF6,RB211の3シリーズが牽引車となり,バイパス比が4〜6に増加して今日に至っている(図1-6-567)。これらのエンジンは推力が20tを超えているが,同様の設計概念は推力1〜2tクラスの小型エンジンにもおよび,現在のタービン・エンジンの主流となっている。
 ファン・エンジンではファンを出た空気をすぐ外気に吹き出す型式(図1-6-5)と,エンジンのケーシングの外側の長い環状ダクトを通してタービンの排気ガスに合流させる型式(図1-6-6)とがある。こうしたことからファン・エンジンをバイパス・エンジン(bypass engine)とか,ダクテッドファン・エンジン(ducted-fan engine)と呼ぶこともある。
図1-6-5 JT9D-7R4 ターボファン
図1-6-6 CF6-80C ターボファン
図1-6-7 RB211 ターボファン
(3) ターボプロップ・エンジン(turboprop engine)
 ターボジェットやターボファンよりやや低いM0.65以下の飛行速度での経済性に優れた型式で,排気の噴流による出力は,エンジン全体の出力の10%程度のものが多い。排気エネルギーの約90%を軸馬力として取り出し,減速装置によってタービンの回転を1/10くらいに落として,大型プロペラを回すものである(図1-6-4.C)。
 飛行速度がM0.65を超えるあたりから,プロペラの先端速度が音速に近づくため,機速が抑えられるが,短滑走距離,中速度向きに適したエンジンである(図1-6-8)。出力は小は500から,大は6,000相当軸馬力(ESHP)と範囲が広いが,最近は小型の高性能ターボファン・エンジンに取って代わられる傾向がみられる。
図1-6-8 ガレットTPE331 715馬力 ターボプロップ
(4) ターボシャフト・エンジン(turboshaft engine)
 ターボプロップ・エンジンを一歩進め,エンジン出力を100%軸出力として取り出すように設計されたもので,主としてヘリコプターの動力に用いられる。多くの場合,コンプレッサー駆動タービンの後方に,機械的に独立したフリー・タービン(free turbine,パワー・タービンともいう)を有し,このタービンの軸出力を減速してヘリコプターローターを回す。出力は400〜11,000SHPでピストン・エンジンに代わってヘリコプター用エンジンの主流となっている(図1-6-9)。
図1-6-9 ライカミングLTS101 600馬力
(5) 次世代エンジン(next-generation engine)
 亜音速飛行の領域で,現用のターボファン・エンジンより一層,省エネルギーを目指して開発中のものをいい,新型ターボファン,高速ターボプロップおよびギヤードファンの3種がある。(→推進装置の技術
a. 新型ターボファン・エンジン(advanced turbofan engine)
 1980年代のうちに実現確実のもので,現用のいわゆる第2世代ターボファンより燃費(1kgの推力を1時間発生したとき消費した燃料をkgで表す)が10%以上低いところを目指し,JT9D,CF6,RB211の各シリーズの改良型やPW4000などが競合している。またこれよりやや小型のものにPW2037,CFM56-5やV2500といった推力10t余りのものも台頭しつつある。V2500は日本を含む5カ国が共同開発したエンジン(図1-6-10)で,特に明るい将来性が期待されている。
図1-6-10 V2500ターボファン
b. 高速ターボプロップ・エンジン(ATP:advanced turboprop engine)
 ターボファン並みの高速でターボプロップ並みの低燃費を実現すべく,1960年代末頃に研究が始められ,その後NASAを中心とするアメリカが先行し,欧州および日本でも開発が進められている。
 高速プロペラの実現には,機体の空気抵抗の増加(空気抵抗は速度の2乗に比例する)に対抗するための,プロペラの出す推力の大幅増に対応して,エンジンの出す大馬力をプロペラに吸収させる必要がある。このため高速プロペラはブレード数を増すとか,二重反転式とし,さらにブレードの周速を落とすため直径を抑えるなどの方法がとられる。
 さらにジェット機での翼の音速克服と同じねらいで,ブレードの先の方に後退角を付け(写真),これを毎分1,000〜2,000回転させることにより,おおむね80%以上の推進効率を得ようとしている(図1-6-11)。ブレードはもちろん可変ピッチとしており,これらが成功すれば航空エンジンに大きな変革をもたらすことが確実とされている。
 現在,開発中のATPにはいくつもの方式があるが,代表的なものとして図1-6-12にPWA/ハミルトンスタンダードのトラクター(牽引)型の例を,図1-6-13にGEのプッシャー(推進)型の例(ファン駆動部分のみ)を示す。いずれも二重反転ファンローター式で,前者はpropfan,後者はUDF:unducted fanと呼称し,さしあたり離着陸の頻繁な短距離機用に的を絞って開発が続けられている。
 プロップファン(図1-6-12)はエンジンの軸出力を高効率の減速装置を介してプロペラに伝え,両者それぞれを最高性能でマッチさせるもので,オーソドックスにターボプロップを発展させたものといえる。
 これに対して図1-6-13のUDFはフリー・タービンにファンを直結するという独特の着想を採っている。すなわちコア・エンジンの後方に大型の6段タービンを設けてこれに一方のファンを付け,もう一方のファンは回転式としたタービン・ノズル(6段)に付けたものである。タービンはファンの低速回転に合わせるため効率が低くなるので,段数を各6段と多くして必要なトルクを得るとしている。
 プロップファン,アンダクテッドファンはともに長短を持つが,いずれにしてもこれが成功するためには,つぎのような課題が克服されねばならない。〈1〉ファンの空力設計と強度・フラッター対策,〈2〉減速装置(図1-6-13の型式は不要),〈3〉低周波騒音(特に客室への影響大),〈4〉ピッチ制御機構,〈5〉トラクター型(図1-6-12)ではエンジン吸気の捩れ,〈6〉プッシャー型(図1-6-13)ではファンへの熱遮蔽などで,これらはATPの実用化が1990年代とされる理由になっている。(→次世代技術プロペラ
UTC社製プロップファンのブレード
図1-6-11 ATPと他形式との推進効率の比較
図1-6-12 プロップファンの一例
図1-6-13 UDFの反転機構
c. ギヤードファン・エンジン(geared fan engine)
 ATPがターボプロップから派生したと考えられるのに対して,ギヤードファンはターボファンから進化したとみることができる。
 すなわち低圧タービンの軸出力を大幅に減速し,バイパス比8以上のファンを駆動するもので(図1-6-14はV2500エンジンのコアを利用した一構想で,バイパス比は18〜20),超高バイパス・エンジン(ultra-high bypass engine)とも呼ばれる。現用のターボファンよりも一層の低燃費を指向しており,実現はATPと競合すると思われている。
 図1-6-15にATPおよびギヤードファン(いずれも予想)を含む各種エンジンの燃費の比較を示す。
図1-6-14 ギヤードファン(V2500スーパーファン構想)
図1-6-15 エンジンの進歩と燃費
〔構造と働き engine construction〕
 タービン・エンジンはコンプレッサー,燃焼室,タービンの三つの基本コンポーネントから成り立っているが,理解を助けるため構造と働きにかかわる用語その他について紹介する。
コア・エンジン(core engine)
 エンジンの中心部分である前記の基本コンポーネント部分を,コア・エンジンと呼ぶ。ターボファン・エンジンでは,これにファンとファン駆動タービンが,またターボプロップ・エンジンではプロペラ,減速装置とプロペラ駆動タービンが,そしてターボシャフト・エンジンではフリー・タービンが,それぞれ付くわけである。
 新型エンジンを開発する際,すべてを新規に設計する代わりに,費用と時間を節約し失敗の危険を少なくするため,既存のコア・エンジンを原型にして新設計のファンなどを付け,いわゆる派生型のエンジンをまとめることがよく行われる。この場合,開発の成否にコア・エンジンの占める役割は非常に大きい。コア・エンジンはまた,ガスジェネレーター(gas generator)と呼ばれることもある。
ホットセクション(hot section)
 運転中のタービン・エンジンは,燃焼ガスに常時曝される部分と,そうでない比較的温度の低い部分とにはっきり二分できる。前者をホットセクション,後者をコールドセクションと呼ぶ。
 燃焼室やタービンはもちろんホットセクションに含まれ,機械的な応力のほかに高温による大きな熱応力がかかるため,使用材料や設計の上で特別な配慮をしなければならない。ホットセクションが長時間の運転に,どの程度耐えられるかはそのエンジンの定格に大きな影響をもつが,整備作業でもホットセクションの部品は頻繁な点検をするのが常である。
エンジン内部の流れ(internal airflow)
 タービン・エンジンではコンプレッサーに流入した空気は,排気のジェットとなって噴出するまで各コンポーネントを連続して流れる。シリンダーの中で流れを継続させるピストン・エンジンと大きく異なる点である。つまりタービン・エンジンでは,通路が筒抜けの状態で熱サイクルが進むわけである。
 外気は空気取り入れ口(air intakeまたはnose cowl)内で,まずラム圧によりわずかに加圧される。コンプレッサーに入ると通路が順次せばめられる間に,ローターとステーターによって加圧され,コンプレッサーの出口では入り口に対して5倍とか10倍とかの圧力になる。これをコンプレッサーの圧力比という。空気は圧縮されれば当然温度も上がり,出口では300℃とか400℃とかになる。
 ところでこの圧縮空気の流れをそのままに燃焼室へ送ると,燃焼室内の焔はたちまち吹き消されるので,中間にディフューザーを設けて圧縮空気の流れを減速させる。燃焼室の入り口付近で燃料が噴霧されると,その温度は2,000℃ぐらいに達するが,ここで余分の空気を加えることによって,燃焼室を出るガスの温度を1,000℃前後に落とす。
 ガスはタービンで膨張し,その間に圧力・温度の大部分が機械仕事に変わるため,ガスの通路は後方にゆくほど大きくしてある。タービンを出たあとのガスにはなお圧力と温度の余力があるので,この先の出口で通路を少し詰めて,このエネルギーをできるだけ速度のエネルギーに変える。出口の排気ノズルを通る瞬間のガスの速度は音速以上にもなるが,この排気ジェットがエンジンの有効仕事である推力を生むわけである。
 排気ノズルを出ればガスの圧力は直ちに外気圧に下がるが,残る温度や速度のエネルギーは騒音などに変わって失われる。
 以上が入り口から出口までの運転中の流れのあらましである。図1-6-163軸式のRB211エンジンについての流れの有り様を示したもので,燃焼ガスの流れのほかにファンの流れについても知ることができる。なお図にはないが,コンプレッサーで圧縮された空気の一部を抜きとり,タービンなどの冷却に使うのが普通である。超音速機の場合は流れの各部が超音速となるため,上記の流れと大幅に変わったものとなる。
図1-6-16 RB211ターボファン・エンジン内部の流れ
モジュール構造(modular construction)
 おもにエンジンの整備性を考えて,全体をいくつかのグループ(モジュール)に分割しやすくした構造をいう。たとえばホットセクションは,運転中は高温に曝されるため,一般的にコールドセクションに比し劣化の進行が早い。このためピストン・エンジンのような完全オーバーホールを避け,劣化の進行程度に応じて,モジュール別に最適の点検や整備をするが,モジュール構造にしてあると,これが容易になる。
 モジュールとしては,たとえばファン,低圧コンプレッサー,高圧コンプレッサー,燃焼室,高圧タービン,低圧タービン,ギアボックスといった分け方をするが,一部のモジュールはエンジンを機体につけたまま交換することもある(図1-6-17
図1-6-17 エンジンのモジュール構造例
エンジンの回転方向(direction of rotation)
 エンジンのローターとか,ターボプロップのプロペラなどの回転方向は,エンジンを後方から見て,時計回り(clockwise)とか,反時計回り(anti-clockwise)とかで表す。わが国を含むほとんどの国のエンジンは,原則的に時計回りを採っているが,英国とロシアは逆方向を原則にしている。技術的にはほとんど意味はなく,ピストン機時代からの伝統に従っているに過ぎない。
(1) コンプレッサー(compressor)
 ピストン・エンジンで圧縮行程が必要なように,タービン・エンジンでも吸入空気をそのまま燃やしたのでは,動力を出すことはできない。すなわち燃焼で発揮できるエネルギーは,費やされる空気の質量に比例することから,まず燃焼サイクルの効率を高めて,自立運転ができるようにすることがどうしても必要となる。そこで与えられた容積内で処理できる空気量を増すためにまず圧縮をするのである。
 エンジンの入り口でこの働きをするのがコンプレッサーである。コンプレッサーの圧力比は設計に当たっては,タービン入り口のガス温度に対応して決められ,初期のエンジンでは5前後であった。しかし最近のものは20を超えるのが珍しくなく,今後はさらに高くなる傾向にあり,これに伴って熱効果も増大してきている。コンプレッサーを動かす動力はもちろんすべてタービンから得られている。
 コンプレッサーには遠心式と軸流式があるが,エンジンによっては二つの方式を組み合わせたものがある。
a. 遠心コンプレッサー(centrifugal compressor)
 ピストン・エンジンの過給機をそのまま大きくしたものと考えてよい。図1-6-18のように扇車(impeller)とディフューザー(diffuser)およびマニフォールド(manifold)から成っている。吸入空気はインペラーの中心部から入り,高速回転をするインペラーから遠心力を受けて振り回され,運動のエネルギー,つまり速度を与えられる。この高速空気はディフューザーで速度を落とされるが,その分だけ圧力が高められてマニフォールドを経由,燃焼室に送られる。
 遠心コンプレッサーは簡単な構造のわりに3〜5と大きな圧力比が得られるため,初期のターボ・エンジンではよく用いられた。ただ,軸流式に比し,同じ空気流量に対して直径が大きくなること,圧力比をもっと高めるため2段以上にすると配置上,流れの圧力損失が大きくなること,および流量を増やそうとすると制約が多いことなどの欠点をもっている。このため遠心式は最近は小型のターボプロップやターボシャフト・エンジンに限定されている(図1-6-89参照)。インペラーは通常,鍛造のアルミ合金で作られる。
図1-6-18 遠心コンプレッサー
b. 軸流コンプレッサー(axial-flow compressor)
 吸入空気はコンプレッサー軸と平行に流れる間に,数段から十数段の動翼列(rotor)と静翼列(stator)によって逐次加圧される。遠心式と異なり,この間,空気の速度はあまり変わらないが,通路の面積は段を追って狭くなっている。遠心式と違い空気に遠心力を利用できないこともあって,1組のローターとステーターで得られる圧力比は最高1.3くらいが限界である。
 ローターはディスクの外周に翼断面を持つ多数のブレードを植えたものを,前後に連結した構造で,図1-6-19.Aのように全体が一体になって高速回転をする。各段のローターブレード列を挟む形で静止したステーター列が図1-6-19.Bのようにケースに固定されている。1組のローターとステーターの対(つい)を段(stage)と呼ぶ。
 軸流コンプレッサーでは,空気は各段ごとに軸方向の運動のエネルギーを与えられながら,拡散を繰り返し,圧力が上昇していく(図1-6-16)。1段の圧力比は遠心式に劣るが,全体では各段の圧力比を掛け合わせるため,遠心式よりはるかに高い圧力比が得られる。なお,タービン・エンジンは初期のターボファンを含めてすべて,コンプレッサーの最前方に入り口ガイドベーン(図1-6-2参照)を持っていたが,騒音源となるため,第2世代のエンジンではすべて取り除かれている。
 ローターとステーターの翼はアルミ合金のものもあるが,圧力比が高められるにしたがって,ステンレス鋼とかチタニウム合金のものが普通になっている。構造的には遠心式より複雑で部品数も多くなるが,大量の空気を扱いやすいうえ,高い圧力比が得られる利点がエンジンの性能を高める要求に合い,現用されているほとんどのタービン・エンジンで採用されている。図1-6-20はブレードをディスクに固定する方法の例を示す。
図1-6-19 軸流コンプレッサー
図1-6-20 コンプレッサーブレード
c. コンプレッサー・ストール(compressor stall)
 コンプレッサー・ストールは遠心コンプレッサーでも条件によっては起こるが,圧力比5程度を超える軸流コンプレッサーでは,避けられない現象となっている。一つの回転軸で前後に連結された多段コンプレッサーの場合は,各段ごとに異なった速度,圧力,温度の状態で空気を流すため,すべての段が効率よく作動できるのは,設計に用いた回転数付近の狭い範囲に限られる。
 この範囲を外れると正常な流れができなくなり,たとえば始動,アイドル運転とか加速,減速などの場合は計画した流れの前後方向のバランスが崩れて,コンプレッサーの入り口付近とか後段付近に空気が余分にたまり,ブレードのストールを生じて圧縮の働きが失われる。これがコンプレッサー・ストールであって,エンジンに入る空気がひどく乱れたときにも起こる。
 コンプレッサー・ストールが起きると空気が逆流したり,出力が急激に落ちたりすることもあるが,多くは一時的な現象として回復する。回復しないときは,静かにエンジンを絞れば収まる場合が多いが,ひどいときには局部的現象がコンプレッサー全体に拡がって脈動を生じ,ブレードの破損やエンジンが止まるなど大事故に発展することもある。コンプレッサー・ストールはまたサージング(surging)とも呼ばれる。
 コンプレッサー・ストールを防ぐには,前後方向の空気の流れのバランスを保ち,円滑に流れるようにすればよい。これには次の三つの方法がある。
抽気(air bleed)
 コンプレッサーの中段とか後段に抽気弁を設け,低速回転のときに弁を自動的に開き,たまった圧縮空気の一部を大気中に放出させてストールを防ぐ。
多軸(multi-spool)
 コンプレッサーのローターを,普通は低圧グループと高圧グループに二分し,それぞれを機械的に独立させ別々のタービンで回す型式としたもので,2組のローターはそれぞれ自己に最適の速度で回転し,前後の流れのバランスをはかる(図1-6-21)。
 この型式にすると高圧コンプレッサーは小型となるうえ,低圧コンプレッサーよりも高温の空気を扱うため高速回転が可能となる。エンジンの運転では片方の回転数だけをコントロールすれば,ファンを含め残る方は,通過する空気の流量に対応した速度で回転し,広範囲の運転条件で二つのローターの間の流れのバランスが得られ,ストールの発生を防止できる。
 2軸にすると全体の圧力比を高くすることも容易なため,この方式は推力1t級のものから20tを超えるエンジンにまで,広く採用されている。ロールスロイスではこの考えをさらに進めて,ファンを独立させた3軸構造を完成し,コンプレッサーの少ない段数で高い圧力比を得ているが,3軸では重量を減らせるが構造や取り扱いが複雑となるためか,今のところターボファンの分野で他にこの型式をとるメーカーはない(図1-6-71621)。
図1-6-21 多軸エンジン
可変ステーター(variable stator)
 ステーター翼の取り付け角度をリンク機構で運転中に変更できるようにし,広範囲の運転条件でブレードへの空気の流入角度を自動制御させるものである(図1-6-22)。低速時や変速時に中段より前方数段のステーターを動かして安定作動範囲を拡げ,ストールを防ぐ最近の高性能エンジンでは2軸構造の各ローターに可変ステーターを併用し,さらに抽気を加えるものが多いが,3軸の図1-6-7のロールスロイスでは可変ステーターを持たない。
図1-6-22 可変ステーター翼
d. ファン(fan)
 ターボファン・エンジンで,コンプレッサーの前端に付けた通常1段の軸流送風機で,ブレードの数は30枚以上となっているが,新しいものは20枚くらいのものもある。エンジンによってファンが低圧コンプレッサーと同軸のものと,RB211エンジンのようにファンの独立したものとがあるが,いずれもファン付け根付近の流れはコア・エンジンに送られる(図1-6-567)。
 ファンで得られる圧力比は1段で1.5〜1.8と比較的高いが,これと直径の大きさにものをいわせて空気流量が大きいため,ファンが受け持つ推力がエンジン全体の80%に達するものさえある。
 ファンブレードは,高い効率を求めて先端の周速度が音速近くになるためと,振動や破損に強くするために,薄翼で幅広とし,複雑な曲面としたものが多い(写真)。材料はアルミ合金からステンレス鋼,チタニウム合金と変遷しており,最近は軽量化のためにこれをさらに中空としたものも現れている。また,開発段階のものにはFRPなど複合材のものもある。
ファンブレード
(2) 燃焼室(combustion chamber, burner)
 圧縮された高圧の空気に燃料を送って燃焼させ,タービンに適した高温ガスを作る部分で,図1-6-23のように燃料は前端付近で霧化されて燃焼圏を形成する。エンジンを始動するときだけはこの部分で点火プラグの火花を必要とするが,着火すればあとは焔が持続する。
 燃焼圏ではコンプレッサーから来る空気の流速を落としたうえ,逆流や施流(swirl)を与えて焔の吹き消えを防ぐとともに,空気と燃料との混合比(重量単位)を14〜18:1に保ち,燃焼速度を高めるようにする。
 燃焼圏の温度は部分的に1,600〜2,000℃になるが,このままでは燃焼室自身の壁面やタービンの材料が耐えられないため冷却を行う。通常行われるのは,燃焼室ライナーの壁面に多くの孔を空け,燃焼圏をバイパスした空気をここから送り込んで,壁面を冷やすとともに燃焼ガスの高温を薄める方法である。
 これによって,タービンに入るガスの温度は適当な値に下げられる。このように燃焼ガスは多量の空気で薄められる結果,総合的な空気/燃焼比は60〜130:1になる。すなわち,コンプレッサーから送られる空気の全量に見合う燃料を燃やすのではなく,燃焼圏で使われる空気量(一次空気という)は全体の20〜30%にとどまり,残り(二次空気)はすべて冷却に使われる。
 燃焼室やタービンにもっと高温が許されるようになれば,この混合比を変えてタービン入り口温度を上げ,エンジンの熱効率や出力の増加が可能になる。
 燃焼室は常時高温に曝されるため,厚さ2mm前後のニッケルを主体としたHastalloyなどの超耐熱合金が使われるが,これらの表面にセラミックなどの耐熱コーティング(thermal barrier coating)を施したエンジンも出ている。
 タービン・エンジンの燃焼室は基本的に図1-6-24のように,カン型,アニュラー型およびカニュラー型の3種に分けられる。
図1-6-23 燃焼室の作動原理
図1-6-24 燃焼室の3型式
a. カン型(can type)
 それぞれ独立した5〜10個の筒型燃焼缶を円周上に並べたもので,頑丈なうえに,設計,整備も比較的容易なため,初期のエンジンではこの型式が多かった。しかし高空での燃焼が不安定で始動時の不具合が多く,また燃焼室出口のガスの温度分布が不揃いとなりがち,などの欠点により最近はほとんど採用されなくなった。YS-11用のDart10ターボプロップ・エンジンはこの型式である。
b. アニュラー型(annular type)
 大きな直径のドーナツ断面のものに,多くの小孔を開けた籠(かご)のような一本の燃焼缶で,修理や交換は面倒になるが,構造的に最も簡単で全長が短く圧力損失が少ないうえ,燃焼は安定し,出口のガスの温度分布が均一となるなど多くの利点があり,新しいエンジンのほとんどはこの型式を採っている(図1-6-25)。
図1-6-25 アニュラー型燃焼室(JT9D)
c. カニュラー型(cannular type)
 カン型とアニュラー型を組み合わせた型式で,特性も両者のほぼ中間にあり,1960年代に作られたいわゆる従来型エンジンのほとんど,すなわちJT3D,JT8D,Spey,CT-58(ターボシャフト)などが,この型式を採っている。
 なお燃焼室は,大部分のエンジンではコンプレッサーとタービンの間に挟まれ,流れは一方向であるが,小型タービン・エンジンなどには燃焼室をタービンの外側に付け,流れを二度転回させることにより,エンジンの全長を短縮した構造のものもある(図1-6-89)。
(3) タービン(turbine)
 燃焼室からの高温・高圧ガスをここで膨張させて,そのエネルギーを吸収し,コンプレッサーの駆動または軸出力として取り出す装置をいい,輻流型(radial-flow type)と軸流型(axial-flow type)とがある。輻流型は図1-6-26のように遠心コンプレッサーと似た構造でガスが逆に流れると考えてよいもので,初期のハインケル・エンジンはこの型式であった。
 最近のものでは,小型のターボシャフト・エンジンの一部で用いられている程度であるが,自動車用ターボ過給機はほとんどがこの型のタービンを使用している。
図1-6-26 輻流タービン
a. 軸流タービン(axial-flow turbine)
 圧縮と膨張の違いはあるが,構造的には軸流コンプレッサーとよく似ている(図1-6-27)。すなわちタービンは静翼列から成るステーターと,動翼列から成るローターの組み合わせで,一組を段(stage)と呼ぶこともコンプレッサーと同じである。タービンの入り口と出口の圧力比を膨張比(expansion ratio)といい,1段当たりで2前後となっている。ターボジェット・エンジンでは燃焼ガスの持つエネルギーの3/4程度がここで軸出力に変わり,そのままコンプレッサーの駆動に消費される。
 軸流エンジンを例にとると,一つのエンジンでコンプレッサーの圧力比と,タービンの膨張比はほぼ同程度であるにもかかわらず,段数はタービンの方がはるかに少ない。これはタービンがはるかに高い温度差で働くことと,流れが低圧部から高圧部へ流れるコンプレッサーより,自然に順応した(高圧→低圧)流れのタービンの方が楽なためである。
 ステーターはタービン・ノズル(turbine nozzle)とも呼ばれ,翼断面を持ったベーンを各段に数10枚,環状に並べてケースに固定したもので,燃焼ガスを適当な角度で高速流にして,ローター・ブレードに吹き付ける働きをする。ノズルはタービンの内部で最も高温に曝され,熱による変形を多く受けるため,コンプレッサーからの抽気を導いて冷却を行う(図1-6-28)。
 ローターはこれも翼断面を持つブレードを各段,数10枚から100枚余り,ディスク(disc, disk)の外周に植えたもので,ノズルからのガス流を受けて回転する。ガスの膨張(すなわち圧力降下)には,各段ごとのノズルとブレードの両方で行わせるもの(反動タービンと呼ぶ)と,ノズルのみで行わせるもの(衝動タービンと呼ぶ)とがあって,それぞれ長短がある。実用タービンではブレードの根元と先端とで円周速度が異なることから,図1-6-29のようにブレードにひねりを与え,根元を衝動型,先端を反動型としたものもある。
 タービンは高温度,脈流による振動,腐食,ブレードではこれに遠心力が加わるという具合に使用条件が厳しく,かつエンジンの出力や熱効率,耐久性などを大きく左右するため,特に高温強度や熱疲労,耐食性に優れた材料が求められる。
 ニッケルを主体(ブレード,ノズル),コバルトを主体(ノズル)のいわゆる超耐熱合金がそれで,鋳造品や鍛造品から仕上げられる。ディスクもニッケル主体の耐熱合金で作られるが,最近は耐熱金属の粉末を型に入れて焼結したものも実用化されている。
図1-6-27 軸流タービン
図1-6-28 タービン・ノズルと空気冷却
図1-6-29 タービンブレードの衝動と反動
b. タービンの冷却(cooling of turbine)
 タービンは作動ガスの温度が高いほど小型ですみ,熱効率ひいてはエンジンの出力も増加することが知られている。初期のエンジンでは,タービン入り口温度は700℃余りに過ぎなかったが,耐熱合金の進歩に伴って次第に高温が許されてきた。しかし現用の超耐熱合金でも,長時間直接耐えられるのは900〜950℃が限度であって,入り口温度をこれ以上に上げようとすれば特別の方法を採らねばならない。
 ノズルやブレードを圧縮空気を使って内部から空気冷却したり,金属の表面に耐熱コーティングをし,これによって母材を900℃くらいに保ちながら,ガス温度を1000℃以上に高める方法がこれである。最近の高バイパス比のターボファン・エンジンではタービン入り口温度が1,300℃を超えるものが現れている。
 タービン・ブレードやノズルの空気冷却はこれらを中空にして,コンプレッサーからの抽気(300〜400℃程度)をここに吹き込んで行うもので,空気の流し方により対流冷却,衝突冷却,気膜冷却,浸出冷却の方法がある(図1-6-30)。
図1-6-30 空冷タービン翼の冷却方式
対流冷却(convection cooling)
 中空部の通路へ冷却空気を通過させ,減圧する間に本体を冷却する方式で図1-6-28もこの例である。
衝突冷却(impingement cooling)
 周囲に小孔のある金属製のさや(insert)を中空部にはめ,さや内部からの冷却空気を本体の内壁に衝突させる方式で,前縁部の冷却に使われることが多い。
気膜冷却(film cooling)
 本体の表面にあけた無数の小孔(直径0.05〜0.5mm)から冷却空気を吹き出させ,この空気のフィルムによって本体を高温から保護する方式。
浸出冷却(transpiration cooling):
 本体を焼結合金などの多孔質材料(porous metal)で作り,材質内の微小隙間から冷却空気を吹き出させる方式であるが,ガスによる目づまりなどのため,現在は実験の段階にとどまっている。
 実用エンジンでは以上のような内部冷却の方法を組み合わせている(図1-6-31)。製作費はきわめて高く,ブレード1枚が10数万円にもなるが,エンジンの性能向上のメリットが大きいため十分償われている。ただ,冷却空気の量が,コンプレッサーを流れる全量の10%近くにもなるため,これを減らす研究が進められており,耐熱コーティングはこの目的にも合致している。
 耐熱コーティングは表面に厚さ0.2mm前後の酸化アルミとかセラミックを被覆するもので,上記の冷却空気の量を節約できるものとしても注目されている。
図1-6-31 空冷タービン翼(CF6第1段ブレード)
c. アクティブ・クリアランス・コントロール(active clearance control)
 タービン・ブレードは,ケーシングの内側を回りながら機械仕事を生むが,ブレード先端で前後の差圧は極力洩れないことが望ましい。一方,ローターとケースは熱膨張が異なるため,運転条件によって別個に伸縮する。
 組み立ての際,このブレード先端の隙間が少なすぎると,離陸時などに接触してブレードを傷めるし,逆に隙間を多く取ればガスの素通りによる損失が増える。このため隙間を小さくしブレードの先端を鋭い刃状(knife edge)にして,万一接触しても損傷を起こさぬようにしている。しかしこれでは,上昇や巡航に移ると隙間が過大となるのは避けられない。
 これを補正するために考え出されたのが,アクティブ・クリアランス・コントロールであって,図1-6-32のように,たとえば巡航時にケーシングの外周に冷風を吹き付け,強制的に収縮させて,隙間を0.3〜0.5mm程度に保とうとするものである。冷風の操作は操縦席からのスイッチによるが,これを完全に自動化し,高度,速度,出力に応じて冷風の量を加減し,特に巡航中の隙間をミニマムにするようにしたものもある。ちなみに,このクリアランスの1%増加は,燃費2%の増を招くといわれる。
 なお,このクリアランス・コントロールをタービンだけでなく,コンプレッサーの後段に適用したエンジンもある。
図1-6-32 強制クリアランス・コントロール(CF6・タービン)
(4) FADEC(full authority digital electronic control)
 FADECは,現在主力として活躍している航空機,たとえば747-400で用いられている,エンジンをコントロールするシステムの総称であり,機体側と係わり合って,あらゆるエンジンコンディションにおいて最適な性能が得られるように機能するものである。
 FADECの採用によりエンジンのコントロールは機械的なものから電気的なものになり,応答性がよく,また正確にエンジンをコントロールすることが可能になった。
 さらに最新の航空機はパイロットが2人編成となったため,FADECの採用によりパイロットの負担も軽減され,適切で安全な操縦が可能になった。
a. FADECの概要
 FADECを構成する部品としては図1-6-33のとおりである。
 FADECを構成する部品として最も重要で頭脳として機能しているのはEEC(electronic engine control)である。
 EECはパイロットの操縦するスロットルレバーの位置およびエンジン,もしくは航空機に取り付けられている各種センサーからさまざまな情報を受け取り,最適なエンジン推力が得られるようエンジンをコントロールする。
 また,FADECの採用により,操縦室のスロットルレバーからエンジンへの信号の伝達は,機械的なケーブルから電気信号によるワイヤーに変更になった。
図1-6-33 FADECの構成部品
〔性能 performance〕
(1) 推力(thrust)
 飛行機の原動力としてエンジンが発生する推進力をいう。ターボジェットを例にとれば,前方から吸い込んだ空気を高速で後方へ噴出させることにより,その反作用として推力が得られる。通過する空気の量や噴出速度が異なる点を除けば,原理的にはプロペラ機もジェット機も同様である。推力はkg(またはlb)で表す。
 ターボジェット・エンジンから発生し,機体の推進に有効な推力を正味推力(net thrust)と呼び,近似的には次式で計算される。
正味推力
Fn=Wa/g(Vj−Va
 各符号はそれぞれ,Wa:吸入空気流量(kg/sec),g:重量の加速度(9.8m/sec2),Vj:排気の平均噴出速度(m/sec),Va:飛行速度(m/sec)を表す。
 上の式に(−Va)の項があるのは,飛行中の正味推力を算出する場合,静止している外気を飛行速度まで加速する仕事量を差し引く必要があるためで,飛行機が静止していればVaである。このときの推力WaVj/gを静止推力(static thrust)と呼ぶ。
 ターボファン・エンジンの場合は上式による推力のほかに,ファンの発生する推力を加えた次式で表される。
正味推力
Fn=Wp/g(Vj−Va)+Wf/g(Vf−Va
 各符号はそれぞれ,Wp:コンプレッサーを通る空気流量(kg/sec),Wf:ファンから吹き出される空気流量(kg/sec),Vf:ファンの平均噴出速度(m/sec)を表す。
 JT9D-7R4エンジンが離陸時(静止とみなす)に発揮する正味最大推力は24.9tに達する。
 エンジンの出力を増すには上式にあるWa,Vj,Wp,Wf,Vfを増せばよい。新型エンジンの開発では,コンプレッサーの圧力や効率,燃焼室やタービンの温度や効率を増したり,回転数を最適とするなどによってWaやVjを増し,推力の向上を図るのが常である。なおターボプロップ・エンジンの出力は,上記の推力がプロペラを駆動する軸馬力に加わる。
(2) 推力に影響する外的要因(ambient effect for thrust)
 ターボジェット・エンジンの推力を表す前項の式で,外的なものに空気密度(Waに含まれる)および飛行速度がある。空気密度(気温,気圧,高度の関数)の増減は推力の増減につながり,また機速の増は図1-6-34の(A)曲線のように推力減につながる。ところが飛行速度が増加するに従って,ラム効果(エンジンに入る空気がその速度エネルギーで加圧されること)によって,Waが増えるため,図の(B)曲線のような推力増が得られる。
 結局,実際の推力は,(C)曲線のように機速の増加に伴って,いったん減少するが,その後はラム効果の影響の方が大きくなるため増加する。ジェット・エンジンが高速に向くのがこの図から理解できる。
図1-6-34 飛行速度の影響
(3) 推力と馬力の関係(thrust vs. horsepower)
 ターボジェット・エンジンの出力が推力で示されるのに対し,ピストン・エンジンやターボプロップ・エンジンの出力は,プロペラを回す軸馬力で示される。すなわち推力は力の大きさが表すが,馬力は仕事量の大きさを表すため,両者が出力をそのまま比較することはできない。そこでこの比較のために,推力馬力と相当軸馬力が使われる。
a. 推力馬力(THP:thrust horsepower)
 ジェット・エンジンの推進仕事量を,推力とそのときの飛行速度とから単純に馬力に換算した値をいう。すなわち,推力Fn(kg)のエンジンが,飛行速度Va(m/sec)の飛行機に装着されて飛んでいるとき,推力馬力THPは次式で計算される。
推力馬力 THP=Fn×Va/75
b. 相当軸馬力(ESHP:equivalent shaft horsepower)
 ターボプロップ・エンジンでは,プロペラを駆動する軸出力(馬力で表す)のほかにジェット推力が得られるが,この推力を馬力に換算して,軸出力に加算したものをESHPという。そして,飛行中の相当軸馬力のことを飛行相当軸馬力(flight equivalent shaft horsepower),静止時のそれを静止相当軸馬力(static equivalent shaft horsepower)と呼んで区別している。それぞれの換算式を次に示す。
飛行相当軸馬力

静止相当軸馬力
SESHP=SHP+Fn/1.136
 各符号はそれぞれ,SHP:軸馬力,Fn:推力(kg),Va:飛行速度(m/sec),p:プロペラ効果(0.8前後)を表す。
(4) 効率(efficiency)
 タービン・エンジンの基本熱サイクルは,燃焼が一定圧力で行われることから,通常はピストン・エンジンのオットー・サイクルに対して,ブレイトン・サイクル(Brayton cycle)と呼ばれる。またタービン・エンジンでも他のエンジン同様,燃料の持つエネルギーの一部しか出力エネルギーにはならないが,この比率を熱効率という。
 実際に飛行機の推進に生かされるのは,この出力エネルギーの一部に過ぎないが,この比率を推進効率という。したがって総合的にいうと燃焼した燃料の持っていたエネルギーのうち,どれだけが本当に推進仕事になったかの割合は,この両者を掛け合わせたものでこれを総合効率と呼ぶ。
a. 熱効率(thermal efficiency)
 エンジンの出力エネルギーと,エンジンで消費された燃料の持つエネルギーとの比でエンジン自身の良さを表し,内部効率とも呼ばれる。
熱効率
th=エンジンの出力エネルギー/消費燃料のエネルギー
 熱効率を上げるにはコンプレッサーの圧力比の増加と,それに見合ったタービン入り口温度の上昇が効果的であるほか,コンプレッサー,燃焼室,タービンなど,それぞれの効率を高めることが重要である。
b. 推進効率(propulsive efficiency)
 飛行機の推進に実際に用いられた推進仕事と,エンジンの出力エネルギーとの比で,プロペラ機のプロペラ効率に当たるもので外部効率と呼ぶこともある。いいかえればそのエンジンの出力がどのくらい,推進に役立っているかの割合を表す。
推進効率
p=有効推進仕事/エンジンの出力エネルギー
 推進効率は飛行速度と排気の噴出速度とが近いほどよくなる。たとえば飛行速度500km/h程度の場合であれば,ターボプロップやターボファン・エンジンの方が,ターボジェットよりも平均排気ジェット速度が遅いので,推進効率は勝る(図1-6-35)。しかし飛行速度が増していくと,ターボジェット・エンジンの方が推進効率は大きくなる。
図1-6-35 推進効率の比較
c. 総合効率(overall efficiency)
 (熱効率)×(推進効率)をいう。ターボジェット・エンジンが,最も総合効率が高くなる飛行速度は音速付近よりも上となる。図1-6-36は,きわめて一般的に見た各種エンジンの効率を比較したものである。
図1-6-36 各種エンジンの効率比較
(5) 定格と出力操作(rating & power management)
 定格とは一定の定められた条件で,エンジンを運転する場合に保証されるエンジンの運転条件で,民間航空エンジンで使われているものには下記の定格がある。このほか,エンジンの用途によって,緊急定格とか軍用定格(軍用機)といった特殊な定格が使われる場合もある。
a. 離陸定格(take-off rating)
 航空機の離陸のために使用できる最大定格出力で,使用時間制限(通常5分間)がある。
b. 最大連続定格(maximum continuous rating)
 使用制限なしに連続して使用できる最大定格出力。離陸定格の90%前後の出力で,緊急時に使われる。
c. 最大上昇定格(maximum climb rating)
 上昇のため使用できる最大定格出力で,最大連続定格と同一のことが多い。
d. 最大巡航定格(maximum cruise rating)
 巡航のため認められた最大定格で,離陸定格出力の80%前後の出力。
e. 微速(idle)
 地上または飛行状態でのエンジン最小出力で,離陸定格出力の5〜8%程度の出力であるが,定格に含めないことが多い。
f. 出力操作(power management)
 ターボジェット・エンジンの出力は,スロットルレバー(パワーレバー)1本で,燃料の流量を変更することによりセットされる。ピストン・エンジンがスロットルレバー,高空レバー,プロペラピッチレバーの3本で行われるのと対照的である。パイロットは必要とする機速を得るためスロットルを操作して,エンジンの推力を加減する。
 しかし推力をそのままセットすることはできない。ピストン・エンジンが機上で馬力の測定ができないのと同様,機上で推力の測定ができないからである。このためジェット・エンジン出現当時は,ローター(単軸)の回転数を推力の目安としてきたが,回転数は推力と直線的に比例しない欠点があった(図1-6-37)。
 その後,複軸エンジンや可変ステーターの登場によってEPR(engine pressure ratio)とか,複軸のそれぞれの回転数,あるいは燃料流量などが使われるようになった。EPRはタービン出口の圧力と,コンプレッサー入り口の圧力の比で,これと推力との関係がかなり直線に近い比例関係を持つため,タービン・エンジンで初めて採用された出力目安といえる。
 スロットルレバーの操作で特に注意を要するのは,タービン出口の温度(EGT)である。始動時や上昇中,あるいはコンプレッサーストール時などに操作が遅れたり,エンジンを吹かし過ぎたりしてこの温度が限界を超えると,たちまちタービンの寿命を縮めることになるからである。
 図1-6-38は上昇中のEPRの設定目標と実測値の一例(ボーイング社のデータ)で,特に多発機では,厳密にはエンジンごとに性能のバラツキがあることもあって,目標どおりの出力設定が難かしいことを示している。このため,温度,圧力,回転数など,エンジン操作に必要な変数をコンピューターに入れた,自動制御のFADEC(full-authority digital engine control)が実用に入っている。これによって燃料消費量の無駄も除かれ,安定したエンジンの作動が保証されるとともに,乗員の仕事量も低減することができる。
図1-6-37 推力とRPM,EPRの関係
図1-6-38 上昇中のEPR目標と実測の例
2.ラムジェットとパルスジェット・エンジン(ramjet & pulsejet engine)
(1) ラムジェット・エンジン(ramjet engine)
 ジェット・エンジンで,飛行速度がM3〜4程度に達すると,ラム圧だけで十分な圧縮圧力が得られるため,コンプレッサーとタービンが不要になる。この原理を応用して,超音速飛行専用に開発されたもので,空気取り入れ口,燃焼室,排気ノズルのみから成る導管型の簡単構造のエンジンである(図1-6-39)。
 吸入空気は空気取り入れ口で拡散作用により,速度のエネルギーが圧力のエネルギーに換えられ,燃焼室内で連続燃焼により加熱され,排気ノズルから加速噴出される。ただし低速では効率が悪いので,その使用速度(超音速)に達するまでは他のエンジンを必要とする。現在はヘリコプターの回転翼端エンジンとして,一部で試作研究されている程度である。
図1-6-39 ラムジェット・エンジン
(2) パルスジェット・エンジン(pulsejet engine)
 第2次世界大戦中にドイツがV-1号ミサイルのエンジンとしたことから有名になった,ラムジェットと同様に,コンプレッサーもタービンも持たず,1本の導管から成るジェット推進エンジンである(図1-6-40)。ただし,エンジン前端近くに自動的に開閉する逆止弁(シャッター弁)があり,ラム圧で弁が開くと吸入空気がエンジン内部に入り,噴射燃料と混合して着火燃焼する。燃焼で燃焼室内の圧力が高まると逆止弁が閉じるので,燃焼ガスは排気ノズルから後方へ噴出され,推力を生ずる。このようにして,燃焼が間歇的に一定の振動数で繰り返される。
 M0.4〜0.5前後の飛行速度を得るためには,構造が最も簡単なエンジンであるが,燃料消費量が多く,騒音と振動も大きい。現在は,無人標的機やヘリコプターの回転翼端エンジンとして,ごく一部で用いられている。
図1-6-40 パルスジェット・エンジン
3.ピストン・エンジン(piston engine)
 シリンダー(cylinder)内で燃料と空気の混合ガスを断続的に圧縮,燃焼させてピストン(piston)を動かし,その往復運動を連接棒(connecting rod)とクランク軸(crank shaft)機構とで回転運動に変え,プロペラを回す型式のエンジンで,レシプロ・エンジン(reciprocating engine)とも呼ばれる。
 航空用ピストン・エンジンでは混合ガスをつくる方法に,気化器(carburetor)を用いて燃料を空気に混ぜる方法と,噴射ポンプ(injection pump)を使って吸入管やシリンダーの中へ燃料を直接噴射する方法とがある。
 ガソリンを燃料とするピストン・エンジンは,最初に完成した人の名前をとって,オットーサイクル・エンジン(Otto cycle engine)とも呼ばれ,図1-6-41にあるとおり,吸入・圧縮・膨張(爆発)・排気の四つの行程を,ピストンの2往復(クランク軸の2回転)で繰り返す。このことから4サイクル・エンジンともいい,原理的には普通の自動車用エンジンとまったく変わらない。
 ピストン・エンジンでは,出力の増加や回転の円滑を図るためには,多シリンダー型とする必要がある。航空用では現在,シリンダーの配列は,水平対向型(horizontal opposed type,図1-6-42)と星型(radial type)に限られていて,前者はおおむね400馬力以下,後者はそれより大馬力向けと明確に二分されている。シリンダーの冷却方法は,第2次大戦当時まであった液冷式(liquid-cooled type)は現在航空用としては姿を消し,ほとんど空冷式(air-cooled type)のみとなっている。
 しかしタービン・エンジンの出現によって,大型・高速機はもとより中型機でもピストン・エンジンは出番を失い,ゼネラル・アビエーション向けの小型機や練習機用に限定されるに至った。
 今日実用されているピストン・エンジンには,小型ながら燃料の直接噴射やプロペラ減速装置を持つものがある。1970年頃からはさらに,排気ターボチャージャーによって高度20,000ft前後でほぼ地上出力を発揮するものが数多く実用されている。
図1-6-41 4サイクルエンジン
図1-6-42 テレダイン・コンチネンタルGTS10-520エンジン(4サイクル空冷式水平対向型ガソリン・エンジン,375馬力)
4.プロペラ(propeller)
ピストン・エンジンやターボプロップエンジンの軸出力を推力に変えるのがプロペラで,通常,軸出力の70〜80%が推力に変わる。しかし,効率の悪いプロペラは軸出力は吸収するけれども,それが十分推力にならない。したがって,効率をよくするには機体,エンジンに合った大きさ,型,およびブレードピッチを持ったプロペラを選定し,設計で定められた運転範囲で使用することが必要である。
 プロペラの種類をあげると次のようになる。
(1) 固定ピッチ・プロペラ(fixed-pitch propeller)
 ブレードの角度が一定のプロペラで構造上,最も簡単で軽量である。しかし,効率的に使用できる回転数と出力の範囲が狭いため,その使用は一般に小型機に限られる。アルミニウム製の一体構造のものが多い。
(2) 可変ピッチ・プロペラ(variable-pitch propeller)
 機速とプロペラの回転数に対し,最も適した効率が得られるよう,飛行中にブレードピッチが変えられるように工夫されたのが可変ピッチプロペラである。エンジンの出力や機速に関係なく,あらかじめ選定された回転数を保てるよう,プロペラのピッチが自動的に変化するものもある。ピッチの制御は油圧,または電気的に行われる。
 可変ピッチ・プロペラのなかに,フェザリング・プロペラ(feathering propeller)と可逆ピッチ・プロペラ(reversible-pitch propeller)がある。フェザリング・プロペラは,ブレードを飛行方向と平行にすることができるプロペラで,飛行中,故障でエンジンが停止した場合,プロペラのウインドミル(windmilling,風車状態)による抗力増大を最小限にする。
 これを付けた多発機は,付けないものより1エンジンを停止した場合の上昇性能や飛行性が特に優れている。
 可逆ピッチ・プロペラは,ブレードピッチが逆向きの推力を発生する方向に変わるようにできており,着陸接地後,ブレードを逆ピッチにすることにより,逆推力を発生させ,着陸滑走距離を短くする。
ビーチH-18型用のハーツエル・プロペラとエンジン
5.補助動力装置(APU:auxiliary power unit)
 航空機に空気圧,油圧,電力などを供給するため,推進用エンジンとは別に装備された動力装置をいう。飛行中はあまり使用されないが,地上においては地上施設の援助なしに各系統の動力源とできるため,飛行機の地上停留時間を短縮させ,稼働率を上げることができる。このため最近の旅客機は,ほとんどがAPUを搭載する傾向にある(図1-6-43)。
 APUは大きさや型式もいろいろあるが,主としてガスタービン・エンジンが用いられている。APUのコンプレッサーから抽出した圧縮空気は飛行機の気圧系統に送られ,(1)エンジンの始動,(2)機内の空気調整,(3)油圧ポンプの駆動などに使われ,発電機は機内の各電気機器に電力を供給する。767のAPUには,最高回転数40,400rpmの遠心式コンプレッサー・軸流式タービンのエンジンが使用され,最高40psiの圧縮空気を毎分約270lb供給し,同時に60KVAの発電機を駆動する(図1-6-44)。
図1-6-43 767胴体後端のAPUの装置図
図1-6-44 767のAPU(GTCP331-200)
6.燃料(fuel)
 大別して航空ガソリンとジェット燃料があるが,その運転条件,大気温度,圧力の変化などにより航空機特有の性状が要求される。つまり,発熱量が高いこと,燃焼性のよいこと,揮発性がよく蒸気閉塞の傾向が少ないこと,アンチノック性が大きいこと(航空ガソリン),低温に耐えること,腐食性がないこと,貯蔵安定性が大きいこと,熱安定性が大きいことなどである。
 ジェット機では燃料は燃焼室内で連続的に燃焼するが,それによって生ずる推進力は発熱量に比例するので,高発熱量のものが要求される。一般に航空燃料の発熱量はポンド当たりのBTU,あるいはkg当たりのkcalで表され,たとえば航空ガソリンは18,720BTU/lb以上,ジェット燃料は18,400BTU/lb以上となっている。
 燃焼性については,発火性および燃焼の持続性がよく,煤煙や炭素の生成が少なく完全燃焼させる必要がある。揮発性は航空機が高高度に上がると気圧が低下し,外気温度も−50〜60℃と低温になるため,蒸気閉塞,低温始動,引火点,燃焼性などに関係する。揮発性が低いと低温始動性,引火点が悪くなり,高いと蒸気閉塞(燃料配管系統中で燃料が気化し蒸気となって流れを閉塞し,燃料の供給が不十分となる現象)が起こる。
 耐低温性が悪いと,低温下で燃料中の成分や溶解水分が凍結して,濾過器や配管をふさいだり,粘度が高くなって燃料の流れが阻害されたり,燃焼室での霧化を悪くさせたりする。腐食性については,燃料中に含まれる主に硫黄化合物によるもので,これが燃料タンクや配管,あるいはエンジンの部品を腐食させるので,ジェット燃料でいえばその中に含まれる硫黄分を0.4%以下にきびしく規制している。
(1) ジェット燃料(jet fuel)
 石油原油は蒸溜温度によって軽揮発油,重揮発油,灯油,軽油,および重油に区分することができる。ジェット燃料はこのうち,軽揮発油から灯油までの溜分を規格の諸性状に合うように配合して作られたもので,ワイドカット(wide-cut)燃料とケロシン(kerosene)系燃料の2種がある。前者はJetBまたはJP-4と呼ばれ,軽揮発油と重揮発油の混合油と灯油が約半々に混合されたものであり,後者はJetA-1またはJP-5と呼ばれ,灯油溜分から精製される。
(2) 航空ガソリン(aviation gasoline)
 ガソリンは軽揮発油溜分を規格の諸性状に適合するよう精製したものである。航空ガソリンとしては十分なアンチノック性,適当な揮発性,高発熱量,化学的安定性および耐寒性に富むことなどが要求される。特にアンチノック性については,それぞれの特性によりいくつかのグレード(オクタン価,またはパフォーマンス・ナンバー)に分けて使用される。
7.航空機公害(aircraft noise & air pollution)
 航空輸送がジェット化し大量・高速輸送機関として,国民生活に密着の度を深めるとともに,その副産物として,かつてのどかな風物詩として親しまれさえした爆音は,空港騒音の元凶に変わった。また都市環境浄化の進展で,臭気に代表されるジェット・エンジンの排気ガスによる大気汚染も,空港を取り巻く社会問題として取り上げられるようになった。航空機メーカーも航空会社も,そして国もこれら二つの問題は避けて通れない時代となっている。

〔騒音 noise〕 
 航空機騒音は離着陸(および低空)での運航騒音と,整備や点検でエンジンを試運転するときの地上騒音とに分けられる。運航騒音はさらにエンジンから出るエンジン騒音と,機体の風切りによる空力騒音(aerodynamic noise)とに細分される。
(1) 騒音の単位と騒音コンター(noise level & noise contour)
 音の強さ,大きさを表す単位としてdB(デシベル)があるが,これに感覚量(特に周波数特性と強弱)を加味したものとして,dB(A)またはホン(A)があり,普通使われる騒音計はこの単位を用いている。しかし航空機騒音の評価については,ジェット機の登場とともに広い周波数にわたる騒音を正確に表現するため,以下のような単位が開発された。
a. 感覚騒音レベル(PNL:perceived noise level)
 測定されるジェット機騒音について,定められた「うるささ図」を利用して各周波数幅(オクターブバンド)ごとに積算する,という複雑な手順が採られる。航空機メーカーは,その生産機の騒音データをこのPNdBで表し,また多くの空港でもこの単位で運航騒音の監視を行っているため,現在は航空機騒音の表現方法として一般化している。
b. 実効感覚騒音レベル(EPNL:effective perceived noise level)
 感覚騒音レベル(PNL)は瞬間の,それも最高値を問題にしたものである。ところが騒音に対する嫌悪感はその持続時間とともに増大する。航空機は通過高度によって音の持続時間が変化するため,より正確な「うるささ」として表現するためには,その要因を取り入れなければならない。またタービン機は,その騒音中に顕著な特異音(ファンから出るキーンという不快な音)を含むため,この点も補正を加える必要がある。これら二つの要素を盛り込んだものがEPNLであってEPNdBで表す。
 また騒音レベルに繰り返し回数の効果を考え,騒音量の総和を,観測された期間について時間平均をして求められる騒音を,等価平均感覚騒音レベル(ECPNL:equivalent continuous perceived noise level)という。
c. 加重等価平均騒音レベル(WECPNL:weighted equivalent continuous perceived noise level)
 空港周辺の騒音の影響は,1機による騒音の大きさ,うるささというよりも,それが繰り返し反復するところにある。ICAOでは回数を一日の時間帯別による重みづけをして計算に入れた騒音の表現方法としてWECPNLを採用した。
 このような単位によって空港周辺への航空機騒音の影響を区分し,土地の使用方法規制や各種周辺対策を行うもので,わが国でも環境庁告示の航空騒音に関する環境基準にはこの単位が用いられている。厳密な意味での計算は相当複雑になるが,実用上は次の式で求められる。
WECPNL≒+10logN−27
:1機ごとのピークレベルの1日パワー平均
N=N1+3N2+10N3
N1(07:00〜19:00の機数)
N2(19:00〜22:00の機数)
N3(22:00〜07:00の機数)
d. 騒音コンター(noise contour)
 平面的な騒音の分布を表現する方法で,航空機騒音の場合dB(A),WECPNLなどの単位で描かれる。地図の等高線や天気図の等圧線と同じように,同じ騒音レベルの点を結んだものである。
 民間空港では,航空機が一定の航空路を一定のスケジュールで運航されるため,行き先別の機種,その基礎騒音特性,便数,使用滑走路,飛行経路が与えられればWECPNLコンターを計算できる。この計算には膨大な量のデータを扱わなければならないので,通常コンピューターで処理される。このような方法で将来の騒音コンターを予測することは,騒音軽減運航方式の設定,空港周辺の土地利用計画など航空機騒音対策には欠くことのできない作業である。図1-6-45は747-200の騒音コンターの例である。
図1-6-45 747-200の騒音分布(離陸重量700,000lbs)
(2) 騒音規制(noise regulation)
 航空輸送がジェット化された1960年頃から各国で航空機騒音が新たな公害として出始めた。わが国では1963年10月から実施された東京国際空港での深夜便発着禁止がそのはしりとなり,続いて1967年に騒音防止法が施行された。騒音測定値に時間帯による重み付けをするWECPNLの考え方が導入されたのがうなずける。
a. 米国 FAR 36 standard
 世界で初めて規制値を設け,発生騒音がこれを超えるジェット輸送機の新造を許さないとする騒音証明制度(noise certification)の第1号となったのは,米国の連邦航空規制第36条(FAR Part 36)で,1969年12月に発効している。
 規制の対象は,最大離陸重量75,000lb(34t)以上の亜音速ジェット機で,かつ1967年1月1日以後に型式承認の申請をしたものに限られた。騒音測定の位置は図1-6-46の*印の地点が指定され,騒音基準値(許される上限)が示された。図1-6-47の点線はこれを図化したもので飛行機の離陸総重量に対して,離陸騒音(take-off noise level)および進入,側方騒音(approach & sideline noise level)が定められた。
 FAR 36はその後いくたびか改定された。対象機種が増し,騒音基準値も双発機,3発機,4発機に別々に定められ,かつ厳しくなっている。また最初は規制対象外であったDC-8,707,727,737をはじめプロペラ機についても対応が決められたが,この中には騒音基準に合わせるための改修が困難,と認められた機種に対する除外規定も含まれている。
 騒音基準は今後も改定が予想されるが,現在のものは1977年10月改定のもので,騒音測定点も若干変更され,図1-6-46に( )内で示した値となっている。基準の適用はstage 1〜3の三つに区分され,stage 1は1987年中に図1-6-47の点線の基準を達成すべきものとして,DC-8や707に代表される古い設計の機種が対象となっている。
 stage 2は図1-6-47の点線の基準(1969年のFAR 36)が達成可能な新型機のうちstage 3に該当する以外のもので,騒音基準値をエンジンのバイパス比2以下と2以上とに分けて定め,機種は727,737,747,DC-9,DC-10,L-1011と現在の稼働機の大部分をカバーしている。
 stage 3は図1-6-47の実線で示される最も厳しい基準で,1978年FAR 36と呼ばれ,1975年11月5日以後に型式承認を得た機種,すなわち737-300,757,767,MD-80,A300,A310,A320をはじめその後申請する新型機が対象となっている。
図1-6-46 FAR36騒音基準の測定点
図1-6-47 FAR32-8騒音基準値
b. ICAO annex 16 standard
 ICAOはFAAよりやや遅れて規制のルール化を進め,1972年1月から第16付属書(annex 16)を施行した。内容はFAR 36と大同小異で新型機のみを対象としたものである。その後プロペラ機の追加や基準値の見直しが行われ,現在のものは1978年改定のもので,仕様変更期日が数年後となった点と,stage 1〜3をchapter 1〜3と読みかえる点以外はFAR 36とほとんど変わらない。
c. 航空法第20条
 わが国の場合はICAOのannex 16に準拠した「騒音基準適合証明制度」を運輸省が1975年10月から施行した。内容のうち,以下の点でICAOのものと異なっている。
〈1〉 エンジンの種類やバイパス比に関係なく,すべてのジェット機に適用する(ただし一部の旧型機には適用除外規定がある)
〈2〉 型式証明ではなく,飛行機の耐空証明の一環として1機ごとに証明する
〈3〉 この制度に適合しない航空機の購入を認めない
〈4〉 在来機で,たとえば727,737,747,DC-9,L-1011など,騒音を下げるための改修部品が開発された場合は必ず採用しなければならない
〈5〉 基準の改定によって,新しい値に適合する改修部品が開発された場合も,必ず採用しなければならない
〈6〉 原則として騒音適合証明は1機ごとに測定する
〈7〉 証明を有する航空機が,騒音に影響する改修をした場合も対象となる
 その後,ICAOの動きを踏まえて改正され,現在の騒音基準値は,図1-6-47の実線を含むannex 16と同様になっている。ただし1977年10月以前に耐空証明が申請された機種は同図の点線ないし少し下の基準となっている
(3) 騒音対策(acoustical technology)
 航空機騒音の対策は,技術面からする発生源対策と,空港構造や土地家屋などの空港周辺対策とが考えられるが,ここでは発生源対策に絞り航空機自体とその運用上の点について説明する。
a. エンジン騒音(engine noise)
 エンジンの騒音対策は,排気の噴流による騒音に対するものと,内部の回転部分で発生する機械騒音に対するものとがある。
 排気噴流の音響出力は,噴流速度の8乗に比例することから,噴流速度を下げることが騒音の低減に大きな効果をもつのは当然である。一方,エンジンの推進力は噴流速度と空気流量の積で求められることから,一つの例として,推進力の同じ二つのエンジンがあり,一方は空気流量が他方の2倍,排気噴流速度が1/2というケースを考える。
 単純な計算によればこの場合,騒音は空気流量の増加によって約3dB増すが,噴流速度の減少によって約24dB低下し,差し引き21dB静かになる。実際にはこの数字ほどではないが高バイパス・エンジンほど静かになる。一般的にはバイパス比が大きくなると図1-6-48のように減音量が増加する。
 このように低燃費や高性能を目標とした高バイパス・エンジンは騒音の点でも大変有利なのである。すなわち,低騒音対策の第一はエンジンを高バイパス化することといってもよい。図1-6-49はターボジェットと高バイパス・エンジンについて,エンジンの各部から伝わる騒音を概念的に示したものである。
 ただし高バイパス・エンジンがターボジェット・エンジンより静かであって,騒音規制に合格しているといっても,さらに静かさを求められている。このためにはファンの回転数を低く抑えるとか,ファンブレードとベーンの間隔やブレードの枚数を適正にして,騒音のエネルギーを減らすとか,エンジンの空気取り入れ部や排気口などにハニカム構造の特殊吸音板を貼って,音のエネルギーを吸収させるなどの方法がとられる。図1-6-50は737用JT8Dエンジンでの例で,減音ナセルにより5dB程度の騒音減を得ている。
図1-6-48 バイパス比による騒音軽減効果
   (推進力を等しくした場合)
図1-6-49 ターボジェットと高バイパス・エンジンの比較
図1-6-50 737旧型ナセルと減音ナセル
消音材,吸音材(sound absorbing material, noise reduction material)
 音を吸収減衰させるための材料で,原理的に2種類ある。一つは,機体の内装材として防音と断熱のため多量に使用されているグラスウール(glasswool)などの繊維類で,音のエネルギーを直接吸収消耗させる作用を利用したものである。他方は,ジェット・エンジンの空気取り入れダクトや排気ダクト内壁の内張りなどに使用されている,多孔板に金属ハニカムを裏打ちした構造の吸音板で,音の共鳴による減衰作用を利用したものである。その他,両方の原理をたくみに組み合わせて利用した吸音板も使われている。
消音装置(noise suppressor)
 主としてエンジン吸・排気部に装着され,エンジンの騒音を低減させるための装置である。ジェット・エンジンの場合,主たる騒音は高速の排気ガスが,大気と激しく衝突混合する際に発生するジェット騒音によるものであるが,そこで,排気ノズルの形状を花弁形や多管状の構造とした排気消音装置を装着し,排気ガス噴流を細かく分割させ,大気との混合を容易にすることで消音をはかったものもある(図1-6-3参照)。
 次に航空機の整備,点検に伴うエンジンの試運転は長時間,大出力とする作業であって,しかも深夜や早朝に行われる場合が多い。このため試運転用の消音装置が必要となった。図1-6-51はその一例として大型ジェット機用のもので,主翼の翼端と後縁に沿って,鋼製多孔板の間にロックウールを詰めた高さ10m,厚さ200mmのフェンスを立て,機体をここへ誘導するようになっている。各エンジンの排気口にも多孔板で吸音材を挟んだ長い消音ダクトを当て,排気ガスはすべてこのダクトで後ろ上方に吹き出させる。
図1-6-51 試運転用消音装置
b. 空力騒音(aerodynamic noise)
 空力騒音とは飛行中に翼面,フラップや脚,およびその格納部やドアなどの突出部が風を切り,気流の乱れを生じて発生する音である(図1-6-52)。これが目立つのは着陸のためエンジンを絞って進入するときぐらいで,今のところほとんどエンジン騒音の陰に隠れている。将来,エンジン騒音が大幅に低減された場合には対策が必要と考えられる。
図1-6-52 空力騒音発生要因
c. 運航方法の改善(improvement of flight operation)
 基本的には空港周辺の住宅地区を飛行する際,音源であるエンジン出力を低下させること,あるいは航空機をなるべく離れたところを飛行させ,音源を遠ざける騒音軽減運航方式(noise-abatement operating procedure)がある。
 おもなものとしては,住宅地上空を飛行する際は,エンジン出力を絞るパワー・カットバック方式,従来3°の勾配で進入していたところを,住宅地上空では6°の勾配で進入し,フラップ下げ,および脚下げの操作を遅くすることによって,エンジン出力を上げることなく進入し,音を低減するディレイド・フラップ方式などがある。
パワー・カットバック方式(power cutback departure)
 離陸時の騒音軽減運航方式の一つで,急上昇方式とかATA方式などがある。通常の離陸方式の場合は離陸後,離陸推力のままに上昇と加速を続けるが,この方式では離陸後住宅地区の手前で,安全性の許す範囲内でエンジン出力を絞り,住宅地区を通過後出力を上げ,通常の上昇に戻す。
 この方式で効果を上げるには住宅地区の散在していることが必要条件である。出力を絞ることによって騒音は軽減されるが,上昇勾配も小さくなるため,より遠い住宅地域では逆に騒音が大きくなることもある。
2段階進入方式(two-segment approach)
 着陸時の騒音軽減運航方式の一つで,初期の進入段階では,かなり急な角度(5°〜6°)で降下し,ある高度(800ft前後)からはILSグライドスロープ(通常3°)に乗って着陸する方法である。急な角度で降下している地域では,エンジン出力が大きく絞られ,高度も高いことから,かなり騒音は軽減される。
 この方式を実施するには,急な角度で降下する部分のために,航空機に特別な装置を搭載する必要があり,また地上にも付加的な航空援助施設が必要である。
 アメリカでは,特定の空港で2段階進入方式の実施を義務づけることが提案されていたが,安全性の面や乗員の負担が増加することなどから反対の声が強く,1976年に至り実施は見送られた。

〔大気汚染 air pollution〕
 騒音に続いて航空公害として指摘されたのが,空港内および周辺地域および低空に漂う臭気に代表される大気汚染である。航空機による汚染物質の排出量は,すべての汚染源からの総排出量の1%以下といわれているが,一般の汚染源に対する規制の強化によりクローズアップしたものである。
 航空機による汚染のほとんどは,灯油分の多い燃料を使うタービン・エンジンが関与していて,大別すると(1)排気ガスの放出によるものと,(2)放出燃料(vented fuel)によるものとになる。放出燃料とはエンジンを止めたとき,ホットセクション内に残った少量の生の燃料が,余熱で炭化されて通路が塞がれるのを防ぐ目的で,いったんエンジン外部の容器に溜め次回の離陸後,大気中に棄てるもので,1基当たり1回1程度のものをいうが,1975年にすべて禁止され,生燃料は地上で容器から抜き取ることで解決された(表1-6-2)。
 排気ガスによる汚染は燃料の不完全燃焼と,空気中の窒素の反応による生成物によるものである。タービン・エンジンはもともと燃焼が連続的に行われて安定しているうえ,ピストン・エンジンに比べて完全燃焼に近いため,汚染物質の濃度は低いという特性を持っているが,エンジンの出力が大きいため,排気ガスの絶対量が増加する。
 この結果,総量的にはかなりの量の大気汚染物質が,すす(C),一酸化炭素(CO),未燃焼の全炭化水素(THC)および高温ガスによる窒素酸化物(NOx)という形で測定される。なお一般の汚染源と異なり航空エンジンの排気ガスには硫黄酸化物はほとんど含まれていない。
 航空機による大気汚染をまず取り上げたのはアメリカの環境保護庁(EPA)で,1973年7月に最初の規制を制定し,その後ICAOも取り上げている。
表1-6-2 放出燃料の排出基準
図1-6-53 JT8Dエンジンの燃焼室排煙対策
(1) 米国EPA規制(EPA regulation)
 汚染物質の排出量は,エンジンの種別または出力クラスによって異なることから,EPAでは表1-6-1の区分を定めている。
表1-6-1 エンジンの区分
a. 排煙(すす)(smoke emission)
 排気ガスを決められたフィルターに通したフィルター試料の黒さを反射計で測定して数量化した値を,煙価(SN:smoke number)と定め,排煙濃度の尺度とする。数字の大きい方が排煙濃度は大で,23以下では排煙は目で見えない。
 EPAでは1974年1月1日から1978年1月1日の間に,達成を要する各クラス別許容SNの上限を規定した。この中でクラスT4のJT8Dエンジンは離陸時にSNが60で排煙の目立つエンジンであったが,メーカーは燃焼室での空気と燃料の混合を図1-6-54のように改善し,使用中のエンジンから1974年以降,見える煙をすべてなくすることに成功した。
 しかしJT3Dエンジンについては1980年に基準が緩められ,さらに1982年には適用除外となっている。これ以外のタービン・エンジンに対しては,表1-6-3および図1-6-54の基準適用となっていたが,その後1980年に改定され,1983年1月1日以降に新造のエンジンに適用されることになった。
表1-6-3 新造タービン・エンジンの排煙基準
図1-6-54 タービン・エンジンの排煙基準
b. 汚染ガス(exhaust pollution)
 排気ガスのうち,地表および低空の大気を汚染するものはCO,THC,NOxの3種であるがそれぞれの排出量は一般にエンジンの出力に対して変動し,たとえば図1-6-55のようになっている。これによるとCOとTHCはエンジンの低出力,すなわちアイドル運転時に多いが,出力を増すと急減する。低出力時は燃焼室の中で燃料の霧化が悪いことや,入り口の圧力・温度が低いため反応が不十分となるためである。
 これに対しNOxは逆に低出力時は全く少ないが,出力を増すにしたがって増加する。これは高出力になるほど,燃焼室内の圧力や温度が上がるためで,燃料を効率よく燃やす工夫をすればするほど,NOxを生成しやすいことを表しており,COやTHCと,このNOxとの矛盾をどう両立させるかが課題となっている。
 EPAは1973年に表1-6-4に示すように,新造エンジンに対して規制を公布した。排出される汚染ガス量の測定は,空港ターミナルのランプを出て,高度3,000ftまでと,次の空港の着陸前の高度3,000ftからランプに入るまでの離発着サイクルをシミュレートした図1-6-56の運航モードに従って行われ,「各モードごとのCO,THC,NOxの測定値から,サイクル当たりの値(lb/1000lb推力・時,またはlb/1000馬力・時)を求め」,これをEPAパラメーターと称して規制単位に用いている。
 しかし1978年になって,汚染物質低減技術の進み具合と大気汚染状態とから総合判断をし,特にNOxについては1979年1月の時点で達成不可能とし,タイムリミットを1981年に,その後さらに1983年1月1日以降の新造エンジンに延期している。
図1-6-55 汚染物質排出特性
表1-6-4 新造タービン・エンジンの汚染ガス排出基準
図1-6-56 運航モード(T2,T3,T4対象)
(2) ICAOの規制(ICAO regulation)
 ICAOはEPA規制案を,技術的,社会的,経済的な面で検討し,1982年2月18日発効のガイダンスを提案し,1986年1月1日以降に新造される推力6,000lb(2.7)以上の亜音速ターボジェットおよびターボファン・エンジンのみを対象とした。表1-6-5がその規制値で,測定はEPAとほぼ同じ運転モードで行うが,汚染物質の排出量の単位が異なる。
 すなわちHCとCOは「1サイクルの総排出量(g)をエンジンの定格推力(KN)で割った」値を,NOxはこの値に「2×定格圧力比」を加えた値をとる。
 また排煙基準もEPAと異なり,SNとして「83.6×(定格出力)−0.274または50のいずれか低い方」を上限とし,またJT8D,JT3Dの改造エンジンについては規制外としている。
 全般的にみるとICAOの規制値の方が,EPAのそれよりもかなりゆるい値となっているが,温室効果ガスの削減に向けて世界的に関心が高まるのを受けて,ICAOもNOxの規制強化を図っており,今後開発されるエンジンにはより厳しい基準が適用される可能性もある。
表1-6-5 ICAOの1982年ガイダンス値
(3) 日本の排出ガス規制
 ICAOの規制に準拠して法制化が検討されている。
(4) クリーン・エンジン
 大気汚染を減少させる対策は,エンジンの改良と運用面の改善が考えられる。すすについては燃焼室内の燃焼圏で,局部的に濃い混合ガスを生ずるのが原因であるから,ここへ余剰空気を加えて薄めれば事実上解決は可能である。ただし薄めすぎると高空でエンジンを再始動する場合の特性が損なわれる。
 THCとCOについてはアイドル・モードでの燃焼を工夫する必要がある。GEがCF6エンジンで,30個ある燃料ノズルのうち5個をアイドル時に不作動とし,残りの25個は1個当たりの噴射圧力を高めることでCO,THCの低減に成功しているなどは,この一例である。
 NOxは離陸モードにおける改善が必要で,火焔温度を低く抑えることが効果的である。なお,CO,THC低減のため運用面では,空港内でのアイドル走行を少なくすることが一方法として考えられるが,これは運航上のもろもろの制約と整合されないと実現は難しい。
 根本的な大気汚染対策は,いわゆる低公害エンジン(clean engine)の開発に尽きると思われる。NASAはP&WおよびGE両社の協力を得て,全く新しい設計の燃焼室をテストしたが,その結果が次世代のエンジンの設計に反映されることが期待される。最近開発された大型ターボファンエンジンの中には,従来よりも30〜40%程度のNOx低減に成功しているものもある。

8.関連用語
圧縮比(compression ratio)
 ピストン・エンジンで,ピストンが下死点にあるときと上死点にあるときとのシリンダー内容積の比をいい,圧縮比が大きくなるほど熱効率が増し,燃料消費率が向上し,出力を増す。ただし圧縮比をある範囲を超えて高くすると,ノッキングなどの異常燃焼を起こし,かえって効率が低下してしまう。したがって,航空用ガソリン・エンジンの実用上の圧縮比は5〜10である。なお,ガスタービン・エンジンでは相当する用語には圧力比が使用される。
圧力比(pressure ratio)
 コンプレッサーによって空気の圧力が上昇する度合いをいう場合が多い。つまり出口側の圧力と入り口側の圧力の比で,性能の決定や評価に使われる。
アフターバーナー(afterburner)
 ジェット・エンジンの推力を一時的に増加させるために,排気管中に燃料を噴射し,タービンを出てきた排気ガスを再度燃焼させて推力の増強を行う装置で,リヒート(reheat)もしくはオーグメンター(augmenter)ともいう。
 離陸時や,高高度上昇時に使用されるが,超音速機ではそのほか超音速への加速時にも使用される。この方法によると20〜30%程度の推力増強が得られるが,燃料消費率が非常に大きくなるので一般のジェット機では用いられず,もっぱら軍用機や超音速輸送機に用いられる。
案内翼(guide vane)
 タービン・エンジンで,吸入空気やガスの流れに一定の方向を与えるための静翼(固定された羽根)をいう。コンプレッサー入り口(IGV:inlet guide vane),コンプレッサー出口(EGV:exit guide vane),タービン入り口(NGV:nozzle guide vane)などに使われるが,コンプレッサー入り口案内翼は騒音源となる働きが大きいので,多くは廃止されている。
アンコンテインド・フェィラー(uncontained failure)
 タービン・エンジンの故障のうち,それが外部に損傷を与える種類のもので明確な定義はないが,たとえばコンプレッサーやタービンのケースが破れたり,燃焼室が破れて火災のためケーシングを溶かし,周囲の機体構造を焼いたりする場合も含まれる。
 しかしアンコンテインド・フェィラーの代表的なものといえば,大きな質量と運動量をもつローターが破損し,その破片がケーシングを突き破る故障である。金属材料の疲労や過大応力による亀裂あるいは温度の過昇が主原因である。
 破片をエンジン内部にとどめることが望ましいが,疲労破壊に至らぬようローターの使用サイクル(離着陸回数)を常に算出し,あらかじめ決めた安全回数以内で交換する方式や,過熱,過回転の追跡データによる処置などがとられている。なおファン・ブレードなどの破損に対して破片の飛び出しを防ぐため,周りのケースに強靱な複合材を巻いたエンジンもある。
エンジン運転限界(operating limit of engine)
 エンジンは運転中に,高圧ガス流による空力荷重,高温燃焼ガスによる熱応力,高速回転による遠心応力の苛酷な組み合わせ応力を受けている。したがって,耐久性の上からそれら応力に十分に耐え長時間の使用が可能なように,エンジンの使用条件に応じて運転上の限界が規定されている。ジェット・エンジンの場合,「推力」「排気ガス温度」「回転数」「油圧」が特に重要で,使用制限時間を含む厳しい限界値が設定されている。
エンジンナセル(engine nacelle)
 エンジンを整形するおおい。
QECキット(quick engine change kit)
 エンジンを交換する際,短時間のうちに作業できるように,エンジンに取り付けられた装備品,配管などの一切を含むキットとなったもの。
吸気圧力(MAP:manifold airpressure)
 シリンダーに入る前の吸気圧力のこと。ピストン・エンジンの出力はシリンダーに吸入される空気流量によって変化するが,この供給空気流量はエンジン回転数(RPM)が一定であれば,供給空気温度,およびその吸気圧力で決まる。吸気圧力は回転数と並んでエンジン出力を間接的に測定するパラメーターとして利用される。
逆推力装置(thrust reverser)
 航空機が着陸する際,着陸滑走距離を減らすためプロペラ機ではプロペラを逆ピッチにし,ジェット機では噴出空気または燃焼ガスを逆方向に噴射し,制動をかける装置で,着陸滑走距離の長い大型機あるいは高速機に使われ,車輪のブレーキやスポイラーのブレーキ機構と併用される。タービン・エンジンの場合の逆推力の値は,一般的に,前進離陸推力の30〜50%となっている。
 逆推力装置にはいろいろな種類があるが,いずれも原理的には後方への噴流をせき止め,その流れの方向を斜め前向きにするようになっている。操作は,パワーレバーに結合したリバースレバーにより行われ,パワーレバーがアイドル位置にあるときにのみ作動が開始できるようになっている。
ギヤボックス(gear box)
 エンジンに付属した回転機器,たとえば各種のポンプや燃料制御器,発電機,回転計などを駆動するため,ローター軸の回転を伝える歯車ケースで,エンジンスタート用始動機もギヤボックスに付く。通常,エンジンの真下に取り付けられ,エンジン内部を潤滑した油をいったんこの中に溜める働きを兼ねさせる場合が多い。
始動器(starter)
 小型エンジンの始動には,電動始動器(electric starter)が,また大型タービン・エンジンの始動には,小型で大きなトルクを出す気圧始動機(pneumatic starter)が使用される。
 気圧始動機は,地上のニューマティック・カー,あるいは機上に搭載しているAPU(補助動力装置)からの高圧空気によって回転する小型空気タービンで,この回転を減速させたうえでエンジンのギヤボックスを経てコンプレッサーに伝えられる。コンプレッサーの回転数が,ある一定値以上に達すると自動的にエンジンとスターターの連結が外れるようになっている。
軸馬力(制御馬力)(brake horsepower)
 レシプロ・エンジンにおいてプロペラ軸に伝えられる馬力で,ピストンの発生馬力から各部の摩擦馬力,過給機駆動馬力,その他の補機駆動馬力を差し引いたもの。
スーパー・チャージャー,過給機(super-charger)
 ピストン・エンジンに装備するもので,高空では空気密度の減少で吸入空気流量が減り,出力が低下するのを補うため,燃料/空気混合気がシリンダーに入る前に加圧し,高空でのエンジンの出力低下を防止しようとする装置である。機械駆動式と排気ガス駆動式がある。
スピナ(spinner)
 プロペラの回転中心の先端に取り付けられた整形覆い。空気抵抗を少なくし,エンジンを冷却する効果がある。
トルク計(torquemeter)
 ターボプロップ・エンジンおよび大型のピストン・エンジンに装備され,プロペラを駆動するトルク(ft-lbまたはkg-m単位)を常時操縦席に指示させる装置で,トルク値とプロペラの回転数とからプロペラの吸収馬力を簡単に算出できる。ピストン・エンジンではMAP(吸気圧力)を用いるよりもはるかに馬力算出の精度が高くなる。
 トルク計はエンジンの出力軸とプロペラ軸との中間に組み込まれ,減速歯車にかかる反力を油圧ピストンで支える形式と,中間軸を細長くしてその捩れる角度を電気的に読み取る形式とがある。トルク計はエンジンの実際の馬力を点検したり,燃料消費量と対比して飛行計画の確認をしたり,またピストン・エンジンの場合は巡航時の混合比を調整する目安としても利用される。
燃料制御器(fuel control unit)
 タービン・エンジンの補機の一つで,燃焼室に送り込む燃料の流量を加減する装置である。ピストン・エンジンの気化器に相当する。パイロットがスロットル・レバーで希望する出力をセットすると,外気の温度や圧力,回転数や燃焼室の圧力等の値をすばやく組み合わせて,所望の出力に適した量の燃料を燃料噴射ノズルに送る働きをする。燃料流量の算出は制御器内部の一種の油圧制御(hydromechanical control)で行うのが普通であったが,最近は精度や柔軟性に優れた電子制御(electronic control)に代わりつつある。
排気ガス温度(EGT:exhaust gas temperature)
 タービン出口のガス温度をいい,タービンの働きを左右するタービン入り口のガス温度(TIT)を間接的に推測するパラメーターとして用いられる。JT9D-7R4G2型エンジンは離陸推力(24.9t)のとき685℃。なお複軸エンジンのあるものでは高圧タービンと低圧タービンの中間の温度を測るものもあるが,目的はEGTと変わらない。
ハング・スタート(hung start)
 タービン・エンジンの始動に際し,エンジンが燃焼開始後いつまでたってもアイドルまで加速しない現象で,原因はスターターの出力不足や燃料流量の過少などが考えられる。
パワープラント(powerplant)
 航空機の推進力を得るための動力装置の総称で,エンジン本体をはじめ,エンジンの運転に必要な,吸気,燃料制御,点火,始動,潤滑,排気,水噴射などの諸系統が含まれる。
パワーレバー(power lever)
 タービン・エンジンの出力を制御するためのレバーで,スロットルレバー(throttle lever)とも呼ばれる。エンジン1台当たり1本のレバーが操縦室のエンジン・ペデスタルに設けられており,ケーブルやプッシュ・ロッドを介してエンジン燃料制御装置と結ばれていて,手で操作される。レバーを前方へ進めるとエンジン出力が増大し,後方へ引くと出力が減少するようになっており,最も後方に戻した位置がアイドル位置である。
 また,最近のFADECエンジン付き航空機では,操縦室のスロットルレバーからエンジンまでの経路を,ケーブルやロッドではなく電気ワイヤを介して結んでいる。
バックファイヤー,逆火(backfire)
 ピストン・エンジンにおいて,燃料/空気の混合比が異常に稀薄だと燃焼速度が遅くなり,シリンダー内の燃焼が完全に終わらないうちに吸入弁が開いてしまい,そこから高温の燃焼ガスが気化器の方へ逆流する現象をいう。
フレームアウト(flame-out)
 タービン・エンジンが運転中に,突然燃焼焔が消えて,運転停止状態になる現象をいう。燃料内の水分が凍結して供給経路を一時的に塞いだり,悪天候などで燃焼室への空気供給が一時的に異常を起こすことなどがおもな原因となっている。荒天時の離着陸や上昇飛行ではフレームアウトを予防するため,燃焼室の点火プラグを継続的にONとして飛ぶこともある。なお,空中で万一フレームアウトを生じても,エンジンは再始動できる機能を持っている。
風車状態(windmilling)
 飛行中なんらかの理由でエンジンを停止したとき,空気の力でプロペラやエンジンが風車のように回る状態をいう。プロペラ機ではプロペラをフェザリングにして,ウインドミルを止めて空気抵抗の増加を防止するが,ジェット・エンジンでは,ローターは風車状態のままである。
補機(accessory)
 通常,エンジン補機を指す。エンジン本体に取り付いている部品のうち,パイプ,ダクト,電気配線などを除いた機能部品の総称で,たとえば,燃料制御器,燃料ポンプ,点火装置などのこと。
ホット・スタート(hot start)
 タービン・エンジンの始動中に,EGT(排気ガス温度)が異常に上昇する現象をいい,原因は燃料流量が過多の場合や,何らかの理由で一時に多量の燃料に点火した際に発生することが多い。
水噴射(water injection)
 タービン・エンジンを例にとると,コンプレッサーや燃焼室に水または水とエタノールの混合液を噴射すること。これにより吸入空気温度を引き下げ,空気密度を増し,もしくは,タービン入り口温度を下げ,その分だけ燃料を多く燃焼させて出力を増すことができる。ただ燃費の増大が甚しいので,水噴射は離陸時のように最高出力のときに短時間(2〜5分)の間のみに使われる。これをwet operationといい,水噴射を行わない運転をdry operationという。
 747の初期型に付いていたJT9D-7型エンジンの場合,水噴射によって約1,500lb(3.3%)の推力増加が得られたが,これ以後の新型では水噴射をしなくても十分足りるようになった。なお,水噴射はピストン・エンジンでも,離陸時の出力増加の策として使われたことがあるが,最近は用いられなくなった。
ラム効果(ram effect)
 飛行速度の増加に伴って,高速の空気がエンジンの空気取り入れ口に押し込まれて圧力が高まり,吸入空気密度が増す現象をラム(押し込み)効果という。タービン・エンジンの推力は,機速が増加するといったん低下するが,約700km/hr以上に達すると,以後はラム効果により逆に増大する。ピストン・エンジンでもわずかながらラム効果がある。
 
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