圧縮比(compression ratio):
ピストン・エンジンで,ピストンが下死点にあるときと上死点にあるときとのシリンダー内容積の比をいい,圧縮比が大きくなるほど熱効率が増し,燃料消費率が向上し,出力を増す。ただし圧縮比をある範囲を超えて高くすると,ノッキングなどの異常燃焼を起こし,かえって効率が低下してしまう。したがって,航空用ガソリン・エンジンの実用上の圧縮比は5〜10である。なお,ガスタービン・エンジンでは相当する用語には圧力比が使用される。 |
圧力比(pressure ratio):
コンプレッサーによって空気の圧力が上昇する度合いをいう場合が多い。つまり出口側の圧力と入り口側の圧力の比で,性能の決定や評価に使われる。 |
アフターバーナー(afterburner):
ジェット・エンジンの推力を一時的に増加させるために,排気管中に燃料を噴射し,タービンを出てきた排気ガスを再度燃焼させて推力の増強を行う装置で,リヒート(reheat)もしくはオーグメンター(augmenter)ともいう。
離陸時や,高高度上昇時に使用されるが,超音速機ではそのほか超音速への加速時にも使用される。この方法によると20〜30%程度の推力増強が得られるが,燃料消費率が非常に大きくなるので一般のジェット機では用いられず,もっぱら軍用機や超音速輸送機に用いられる。 |
案内翼(guide vane):
タービン・エンジンで,吸入空気やガスの流れに一定の方向を与えるための静翼(固定された羽根)をいう。コンプレッサー入り口(IGV:inlet
guide vane),コンプレッサー出口(EGV:exit guide vane),タービン入り口(NGV:nozzle guide
vane)などに使われるが,コンプレッサー入り口案内翼は騒音源となる働きが大きいので,多くは廃止されている。 |
アンコンテインド・フェィラー(uncontained failure):
タービン・エンジンの故障のうち,それが外部に損傷を与える種類のもので明確な定義はないが,たとえばコンプレッサーやタービンのケースが破れたり,燃焼室が破れて火災のためケーシングを溶かし,周囲の機体構造を焼いたりする場合も含まれる。
しかしアンコンテインド・フェィラーの代表的なものといえば,大きな質量と運動量をもつローターが破損し,その破片がケーシングを突き破る故障である。金属材料の疲労や過大応力による亀裂あるいは温度の過昇が主原因である。
破片をエンジン内部にとどめることが望ましいが,疲労破壊に至らぬようローターの使用サイクル(離着陸回数)を常に算出し,あらかじめ決めた安全回数以内で交換する方式や,過熱,過回転の追跡データによる処置などがとられている。なおファン・ブレードなどの破損に対して破片の飛び出しを防ぐため,周りのケースに強靱な複合材を巻いたエンジンもある。 |
エンジン運転限界(operating limit of engine):
エンジンは運転中に,高圧ガス流による空力荷重,高温燃焼ガスによる熱応力,高速回転による遠心応力の苛酷な組み合わせ応力を受けている。したがって,耐久性の上からそれら応力に十分に耐え長時間の使用が可能なように,エンジンの使用条件に応じて運転上の限界が規定されている。ジェット・エンジンの場合,「推力」「排気ガス温度」「回転数」「油圧」が特に重要で,使用制限時間を含む厳しい限界値が設定されている。 |
エンジンナセル(engine nacelle):
エンジンを整形するおおい。 |
QECキット(quick engine change kit):
エンジンを交換する際,短時間のうちに作業できるように,エンジンに取り付けられた装備品,配管などの一切を含むキットとなったもの。 |
吸気圧力(MAP:manifold airpressure):
シリンダーに入る前の吸気圧力のこと。ピストン・エンジンの出力はシリンダーに吸入される空気流量によって変化するが,この供給空気流量はエンジン回転数(RPM)が一定であれば,供給空気温度,およびその吸気圧力で決まる。吸気圧力は回転数と並んでエンジン出力を間接的に測定するパラメーターとして利用される。 |
逆推力装置(thrust reverser):
航空機が着陸する際,着陸滑走距離を減らすためプロペラ機ではプロペラを逆ピッチにし,ジェット機では噴出空気または燃焼ガスを逆方向に噴射し,制動をかける装置で,着陸滑走距離の長い大型機あるいは高速機に使われ,車輪のブレーキやスポイラーのブレーキ機構と併用される。タービン・エンジンの場合の逆推力の値は,一般的に,前進離陸推力の30〜50%となっている。
逆推力装置にはいろいろな種類があるが,いずれも原理的には後方への噴流をせき止め,その流れの方向を斜め前向きにするようになっている。操作は,パワーレバーに結合したリバースレバーにより行われ,パワーレバーがアイドル位置にあるときにのみ作動が開始できるようになっている。 |
ギヤボックス(gear box):
エンジンに付属した回転機器,たとえば各種のポンプや燃料制御器,発電機,回転計などを駆動するため,ローター軸の回転を伝える歯車ケースで,エンジンスタート用始動機もギヤボックスに付く。通常,エンジンの真下に取り付けられ,エンジン内部を潤滑した油をいったんこの中に溜める働きを兼ねさせる場合が多い。 |
始動器(starter):
小型エンジンの始動には,電動始動器(electric starter)が,また大型タービン・エンジンの始動には,小型で大きなトルクを出す気圧始動機(pneumatic
starter)が使用される。
気圧始動機は,地上のニューマティック・カー,あるいは機上に搭載しているAPU(補助動力装置)からの高圧空気によって回転する小型空気タービンで,この回転を減速させたうえでエンジンのギヤボックスを経てコンプレッサーに伝えられる。コンプレッサーの回転数が,ある一定値以上に達すると自動的にエンジンとスターターの連結が外れるようになっている。 |
軸馬力(制御馬力)(brake horsepower):
レシプロ・エンジンにおいてプロペラ軸に伝えられる馬力で,ピストンの発生馬力から各部の摩擦馬力,過給機駆動馬力,その他の補機駆動馬力を差し引いたもの。 |
スーパー・チャージャー,過給機(super-charger):
ピストン・エンジンに装備するもので,高空では空気密度の減少で吸入空気流量が減り,出力が低下するのを補うため,燃料/空気混合気がシリンダーに入る前に加圧し,高空でのエンジンの出力低下を防止しようとする装置である。機械駆動式と排気ガス駆動式がある。 |
スピナ(spinner):
プロペラの回転中心の先端に取り付けられた整形覆い。空気抵抗を少なくし,エンジンを冷却する効果がある。 |
トルク計(torquemeter):
ターボプロップ・エンジンおよび大型のピストン・エンジンに装備され,プロペラを駆動するトルク(ft-lbまたはkg-m単位)を常時操縦席に指示させる装置で,トルク値とプロペラの回転数とからプロペラの吸収馬力を簡単に算出できる。ピストン・エンジンではMAP(吸気圧力)を用いるよりもはるかに馬力算出の精度が高くなる。
トルク計はエンジンの出力軸とプロペラ軸との中間に組み込まれ,減速歯車にかかる反力を油圧ピストンで支える形式と,中間軸を細長くしてその捩れる角度を電気的に読み取る形式とがある。トルク計はエンジンの実際の馬力を点検したり,燃料消費量と対比して飛行計画の確認をしたり,またピストン・エンジンの場合は巡航時の混合比を調整する目安としても利用される。 |
燃料制御器(fuel control unit):
タービン・エンジンの補機の一つで,燃焼室に送り込む燃料の流量を加減する装置である。ピストン・エンジンの気化器に相当する。パイロットがスロットル・レバーで希望する出力をセットすると,外気の温度や圧力,回転数や燃焼室の圧力等の値をすばやく組み合わせて,所望の出力に適した量の燃料を燃料噴射ノズルに送る働きをする。燃料流量の算出は制御器内部の一種の油圧制御(hydromechanical
control)で行うのが普通であったが,最近は精度や柔軟性に優れた電子制御(electronic control)に代わりつつある。 |
排気ガス温度(EGT:exhaust gas temperature):
タービン出口のガス温度をいい,タービンの働きを左右するタービン入り口のガス温度(TIT)を間接的に推測するパラメーターとして用いられる。JT9D-7R4G2型エンジンは離陸推力(24.9t)のとき685℃。なお複軸エンジンのあるものでは高圧タービンと低圧タービンの中間の温度を測るものもあるが,目的はEGTと変わらない。 |
ハング・スタート(hung start):
タービン・エンジンの始動に際し,エンジンが燃焼開始後いつまでたってもアイドルまで加速しない現象で,原因はスターターの出力不足や燃料流量の過少などが考えられる。 |
パワープラント(powerplant):
航空機の推進力を得るための動力装置の総称で,エンジン本体をはじめ,エンジンの運転に必要な,吸気,燃料制御,点火,始動,潤滑,排気,水噴射などの諸系統が含まれる。 |
パワーレバー(power lever):
タービン・エンジンの出力を制御するためのレバーで,スロットルレバー(throttle lever)とも呼ばれる。エンジン1台当たり1本のレバーが操縦室のエンジン・ペデスタルに設けられており,ケーブルやプッシュ・ロッドを介してエンジン燃料制御装置と結ばれていて,手で操作される。レバーを前方へ進めるとエンジン出力が増大し,後方へ引くと出力が減少するようになっており,最も後方に戻した位置がアイドル位置である。
また,最近のFADECエンジン付き航空機では,操縦室のスロットルレバーからエンジンまでの経路を,ケーブルやロッドではなく電気ワイヤを介して結んでいる。 |
バックファイヤー,逆火(backfire):
ピストン・エンジンにおいて,燃料/空気の混合比が異常に稀薄だと燃焼速度が遅くなり,シリンダー内の燃焼が完全に終わらないうちに吸入弁が開いてしまい,そこから高温の燃焼ガスが気化器の方へ逆流する現象をいう。 |
フレームアウト(flame-out):
タービン・エンジンが運転中に,突然燃焼焔が消えて,運転停止状態になる現象をいう。燃料内の水分が凍結して供給経路を一時的に塞いだり,悪天候などで燃焼室への空気供給が一時的に異常を起こすことなどがおもな原因となっている。荒天時の離着陸や上昇飛行ではフレームアウトを予防するため,燃焼室の点火プラグを継続的にONとして飛ぶこともある。なお,空中で万一フレームアウトを生じても,エンジンは再始動できる機能を持っている。 |
風車状態(windmilling):
飛行中なんらかの理由でエンジンを停止したとき,空気の力でプロペラやエンジンが風車のように回る状態をいう。プロペラ機ではプロペラをフェザリングにして,ウインドミルを止めて空気抵抗の増加を防止するが,ジェット・エンジンでは,ローターは風車状態のままである。 |
補機(accessory):
通常,エンジン補機を指す。エンジン本体に取り付いている部品のうち,パイプ,ダクト,電気配線などを除いた機能部品の総称で,たとえば,燃料制御器,燃料ポンプ,点火装置などのこと。 |
ホット・スタート(hot start):
タービン・エンジンの始動中に,EGT(排気ガス温度)が異常に上昇する現象をいい,原因は燃料流量が過多の場合や,何らかの理由で一時に多量の燃料に点火した際に発生することが多い。 |
水噴射(water injection):
タービン・エンジンを例にとると,コンプレッサーや燃焼室に水または水とエタノールの混合液を噴射すること。これにより吸入空気温度を引き下げ,空気密度を増し,もしくは,タービン入り口温度を下げ,その分だけ燃料を多く燃焼させて出力を増すことができる。ただ燃費の増大が甚しいので,水噴射は離陸時のように最高出力のときに短時間(2〜5分)の間のみに使われる。これをwet
operationといい,水噴射を行わない運転をdry operationという。
747の初期型に付いていたJT9D-7型エンジンの場合,水噴射によって約1,500lb(3.3%)の推力増加が得られたが,これ以後の新型では水噴射をしなくても十分足りるようになった。なお,水噴射はピストン・エンジンでも,離陸時の出力増加の策として使われたことがあるが,最近は用いられなくなった。 |
ラム効果(ram effect):
飛行速度の増加に伴って,高速の空気がエンジンの空気取り入れ口に押し込まれて圧力が高まり,吸入空気密度が増す現象をラム(押し込み)効果という。タービン・エンジンの推力は,機速が増加するといったん低下するが,約700km/hr以上に達すると,以後はラム効果により逆に増大する。ピストン・エンジンでもわずかながらラム効果がある。 |