日本を代表するアーティストの一人、MISIAさん。
近年は音楽活動に加え、アフリカを支援するプロジェクトChild Africa、COP10(国連生物多様性条約第10回締約国会議)名誉大使、持続可能な地球規模の活動をめざす一般財団法人mudefなど、社会貢献活動にも積極的に取り組んでいます。
そのエネルギーの源や思いはどのようなところにあるのか、最新アルバム「MISIAの森 -Forest Covers-」のリリースを前にMISIAさんにお尋ねしました(聞き手は、日本航空 総務部CSR環境担当の大高由恵)。
MISIA
世界各国色々な場所に行って思うことは、世界のことを知ると逆に日本のことが分かるようになるっていう気がしますね。
JAL
そうですよね。それはありますよね。
MISIA
世界の良さを知ると今度は日本の良さが分かるし、世界の問題を知ると今度は日本で起こっている問題を違う視点で見ることもできるので、自分を知るという意味でも、世界の問題を知っていくというのはとても大事なことだと思っています。
JAL
世界に目を向けられて色々活動するっていうこともそうですし、子どもたちとか、生物多様性もそうですけれども、次の世代により良いものを残していこうという、そういったお考えを持って行動されているところが、私ども日本航空がすごく共感するところでもあるんですね。
もうひとつ同時に、今お話の中でもありましたが、アーティスト活動がお忙しい中で、アフリカまで行かれるとか、それから生物多様性を知るためにあちこち視察されるということは、現実的にはなかなか簡単じゃないと思うんですけれども、実際に問題のある現地に行かれて、自分の目で見て考えて、それを活動につなげるっていうのがすごく素晴らしいと思うんですね。
MISIA
ありがとうございます。
JAL
今の時代は、本当にインターネットで何でも情報が得られるので、わざわざそこまで行かなくてもと思われる方が沢山いらっしゃるようなんですけれども、MISIAさんが現地に行く、ということを大切にしているっていうのは、なぜでしょうか。
MISIA
そうですね、やはり現地に行って初めて分かることというのもとても多いですよね。そして、世界中には、いろいろな問題をそれぞれ専門的に学んで、研究して、解決策を探っている人達って沢山いらっしゃいますよね。でも私は、一アーティストでもあって、音楽を専門にしていますので、貧困や環境などの問題を自分の口で語ったり、考えたりする際に、何が一番の説得力になるかと言うと、実際に自分が見て、感じたこと、見てきたことというものが、一番の私のリアルになるんですね。何がリアルかを、自分で見定めること。情報が沢山ある今だからこそ、ある意味大切な時代になってきてはいますよね。
JAL
たくさんの中から、自分にとって何が大事かを選ぶことは、確かに大変ですよね。
MISIA
はい。そういう意味でも、スタッフの協力や様々な人の力を借りて、こういう風に様々な場所に行かせてもらったり、お話を聞かせてもらったり、私にとってすごく良い経験をさせてもらっていますね。
リアル、といえば、以前、大学でトークイベントをさせて頂いたことがあって、大学生の方に、世界で起こっているこういう問題が実感できないって言われたんです。実感できないから、どう取り組めばいいか分からないと言われたときに、リアルな実感として世界の問題を感じていくことはとても大事だなと。
今起こっている問題で、どういう風に人が傷ついたり、どういう風に世界が傷ついたり、そしてそれが自分にどういう風に戻ってくるのかっていうことまで含めて、想像できる力を育んでいくこともとても大事なんだなあって。でもそのためには、やはり世界のことを学んで、何がリアルか自分で見定める力を養っていかないといけないんだろうなあって思いますね。
JAL
そうですね。
先ほどのお話の中で、現地に実際に身を置くと、問題も沢山あるけれども、それだけではなくていいところも沢山ある、とおっしゃっていましたが、両方が一緒に感じられるのもやっぱりいいところですよね。
MISIA
そうですね。
JAL
旅の中で大切なものを見定めていくというのは、とてもいいお話ですね。JALは旅のお手伝いをする立場にいるので、みなさんがそうやって現地に行かれて、自分にとって何が大切なのかということを見つけるお手伝いができるとすれば、すごく素敵だなと思いました。
私自身も旅行が大好きで、あちこち出掛けるのですが、現地でこそ味わえる新鮮な感動は、やっぱり旅の醍醐味ですよね。それに加えて、実際現地に行くことで、先ほどおっしゃった通り、新しい価値観を学んだり、日本のことをもう一度考えてみたり、そしてそこから何か新しい展開が、というのはきっとあるんだろうなあっていう感じがします。
きっとMISIAさんも、これまでのそういった経験が音楽の中にも活きているのでしょうね。これまで訪れた中で、そういう意味で印象深いところは。
MISIA
全ての場所が印象深いんですが、どこか旅に出ると「ここ、この前行ってきたけど、こうだったよ」って知り合いや友達と話し合ったりします。けれどアフリカがこんな所だっていうことは、それまで聞いたことがなかったので、自分が実際にアフリカに行った時が、一番印象に残っていますね。
悲しい現実だけではなく、とっても素敵なものがあるってお話しましたが、すばらしい自然に、まずすごく感動しました。丘の上に座っているライオンを、遠くからですけれども、見ることができたり。私たちは気付けないですが、何百メートルも向こうにいる動物を現地の方が「そこにいるよ」って教えてくださって、すごくびっくりしたり。
あと、音楽も素晴らしいです。アフリカの人たちは色んな楽器を持っていて全部自分で作られるんですよね。それも廃材とか、そういうものを上手に使って、今まで聞いたことがないような音を出して、演奏しています。
あと、音楽で三連のリズムとか四連のリズムと言って一小節の中に何回四分音符が来るかというリズムの取り方があるんですね。例えば、ワルツは三連ですが。普通の音楽は三連だったらずっと三連なんですが、アフリカ・ケニアで聴いた音楽は、ひとつの音楽の中に三連と四連と五連が同時になっていて。踊り子たちは、上半身は五連でリズムをとっていて、下半身は四連でリズムをとっているのでびっくりするんですよ(笑)。
JAL
そんなことが、ちゃんとできるんですか?
MISIA
ちゃんとできるんです。私は真似できなかったんですけど。本当にリズミカルに踊っていて、たまたまお祭りの日にその村を訪ねることができたんですが、何日間も続くお祭りで、今日は丁度二日目で48時間ずっと歌っているって聞きました・・・。
お祭りというのはその地域にある願いだったり、神様への祈りだったりするので、一生懸命心を込めてずっと歌ってるんだなと思いました。あと、マリに行ったときには、その地域ではお水がとても貴重なものなんですが、私たちがその村を訪ねたときに、一杯のお水を頂いたんです。そこではお水がとても貴重なものなので、お客さんに一杯のお水を差しだすということが、最高級のおもてなしだっていう風に聞いて。例えば井戸が各村にありますが、井戸の水を汲むときは、靴を脱がなければいけないとか、とても神聖な場所として扱われていたり。
改めて自分の生活を振り返ってみても、やっぱり水なしの生活って考えられないし、どうしても便利で水道からすぐ出るので、その有難さを忘れてしまいがちですが、その有難さをもう一度実感したり。まあ、日本でもそうやって自然からの恵みを感謝する文化ってありますよね。いただきますっていう言葉もそうですが。そういうことを改めて実感したりすることも多くありますね。沢山あり過ぎて・・。
JAL
私はアフリカには行ったことがないんですが、やっぱりすごいですよね、自然との結びつきとか自然への感謝みたいなものがきっとすごく沢山あって、それが踊りとか、リズムの話も私には想像できないんですが(笑)、歌をずっと歌い続けるとか、何か自然との繋がりみたいなものを感じますよね。
MISIA
そうですね。自然と私たち自身、本当は密接に繋がって生きているけれど、どうしても忘れがちな生活をしてしまっていますよね。ただアフリカの人たちは実際に自然と密接に関わって生きている人達が多いので、現地に行くとそういうことをまた感じさせられますね。
JAL
アフリカに行ったことで、歌詞とかあまり表面的なことではなく、内面的に、アーティストとして表現って変わりましたか?
MISIA
そうですね、変わったと思いますね。壁がなくなったというんでしょうか。向こうでは、お客さんが来ると皆で歌を聴かせてくれたり、一緒に踊ったりして、そこで壁がポンと外れてしまうんですよね。アフリカの村長さんが言っていた言葉で、「音楽があるところには戦いがない」と。確かに、お互いに嫌な気持ちを持っていると音楽ってできないんですよね。
それから、アフリカのユッスー・ンドゥールさんというアーティストに、「music is language」って、音楽が言葉なんだっていうことを言われて、やっぱり国だったり文化だったりというものを、音楽で越えられると。
だから今まで以上に音楽をやるときに、色んな既成概念とか価値観にあまり囚われずに、伝えたい表現のままにやりたいなっていうこともありますし、やはり人と人を繋げる役目っていうのはものすごく実感しているので、そういう意味ではこういった生物多様性の重要性を伝える活動でも、音楽だからこそできることがあるんじゃないかっていう風に考えるようにもなりました。歌を作って、歌って伝えるということに繋がっているのは、世界の音楽、アフリカでの皆さんの音楽の接し方を見る中で影響を受けたんだと思います。