日々の運航の工夫
JAL Green Operations
JALグループでは、安全運航の堅持を大前提に、CO2排出量を削減するため日々の運航の中でさまざまな工夫をしており、こうした取り組みを総称し、「JAL Green Operations」と呼んでいます。各部門、多くの社員が組織横断的に進捗を共有し、CO2排出量実質ゼロ達成に向け一丸となって活動しています。
2023年度は飛行計画の工夫の取り組みをはじめとした各種取り組みを着実に実施し、2025年度の目標である総排出量の2.5%に対し2.4%の削減効果となりました。
出発準備中
①飛行計画の工夫
飛行機を運航する際は、1便ごとにルート上や目的地の最新の気象情報を入手し、お客さまの搭乗数、貨物重量などをもとに安全性、快適性、定時性を考慮したうえで、燃料消費が少なくなるように飛行計画を作成しています。
その中でも貨物重量を精緻に予測することは、飛行計画作成時の燃料搭載量最適化に大きな影響をもたらすため、組織横断的な取り組みを行うことによって出発前の適切なタイミングでその精緻化を実施し飛行計画に反映しています。
また、太平洋路線(ハワイ、オーストラリア、北米西海岸路線)ではUPR(User Preferred Route)による運航が採用されています。飛行ルートをあらかじめ管制から指定された複数のルートの中から選択する従来の方式と異なり、気象条件などにより、航空会社が自由にルートを設定して飛行する方式です。これにより、最も希望する経路を飛行できることとなり、消費燃料削減、すなわちCO2排出量削減につながります。
UPRの例
青線:成田からホノルルまでのUPRの例
赤線:従来の経路
②搭載重量の削減 *()は1便ごとの削減量
航空機は機体の重量が軽くなるほど、消費する燃料も少なくなり排出するCO2が少なくなります。JALではさまざまな搭載物について、積極的に軽量化を進めています。
軽量化コンテナの積極的な採用 〔東京~ロンドン線:391kg〕
2014年以降、軽量化コンテナを順次導入し、従来品は約100kgあったところ、最も軽いタイプは約60kgに軽量化されました。
軽量化コンテナ
機内で使用する水の搭載量の適正化 〔東京~ロンドン線:390kg〕
機内で使用する水の搭載量は、使用実績にもとづき路線とフライトの形態に合わせて細かく設定し、最適化を図っています。
機内の飲料水などの搭載基準の見直し 〔東京~ロンドン線:113kg〕
国際線では路線別・クラス別に定まっているお酒やジュースなどのドリンクやスナックなどの搭載基準を見直し、便ごとに最適な搭載となるように日々予約数を確認して搭載数量を決めています。
機内誌の軽量化 〔東京~ロンドン線:151kg〕
紙の使用量ならびに機内搭載重量を削減するため、2021年5月より国際線機内エンターテインメント誌「JAL Mooove!」をページ数縮減の上「SKYWARD」へ統合しました。
飲料などの冷却のためのドライアイス搭載量軽減 〔東京~ロンドン線:26kg〕
ドライアイスの使用がCO2排出につながるため、便到着時の残量や飲料の温度を検証し、搭載重量の適正化に努めています。国内線については2003年より蓄冷剤を使用し、CO2排出を大幅に削減しています。
客室用カートの軽量化 〔東京~ロンドン線:26kg〕
機内でお食事の提供時などに使用している客室用カートの軽量化を2019年より進めています。このカートは旧来の客室カートに比べ、1台当たり7.6kgの重量削減となります。
※A350,787型機の国内線にて実施
駐機中
③補助動力装置(APU)の利用削減
飛行機は、地上に駐機中も機内の照明などのために電力と機内の空調を必要とします。そのため、多くの大型旅客機の尾部には補助動力装置(APU:Auxiliary Power Unit)が備えられています。APUは小型のジェットエンジンと同じ構造で、航空燃料を使用しています。従って、このAPUを稼動させることで、CO2が排出されます。またAPUは、駐機場から滑走路へ続く誘導路に向かって、トーイングカーにより後ろ向きに押し出されるプッシュバック中のエンジンスタートに必要不可欠です。
飛行機の出発時、このAPUの稼動開始を可能な限り遅らせ、APUの利用時間を短くすることが、CO2削減につながります。APUを利用しない時の電力や空調は地上設備から供給されますが、この地上設備は飛行機への搭載を前提として設計されたAPUと比較して、効率が良く、排出されるCO2量や騒音低減の面でも有効です。
JALグループでは運航乗務員、出発作業を担当する整備士、地上係員が連携し、お客さまの快適性を損なうことなくAPU利用時間を可能な限り短縮し、出発作業に起因するCO2の削減に努めています。例えば、羽田空港で、ボーイング777型機のAPUによる電力と空調の供給を、地上設備に10分間切り替えると、100kg以上のCO2が削減できます。
補助動力装置(APU)は機体の尾部にあります
④客室シェードクローズ
JALグループでは、気象条件や時間帯により駐機中の機内において、窓のシェード(日よけ)をおろす取り組みを進めています。
駐機中の飛行機は機体尾部に装備されたAPUもしくは地上設備の空調により、機内を快適な温度に保っています。しかしAPUは航空燃料を使用していることから、稼動させるとCO2を排出します。 そこで窓のシェードをおろし、機内をより長く適切な温度に保つことで、エアコンの利用時間を短くすることが可能となり、余分なCO2排出を抑制することが出来ます。
天候などを考慮しながら取り組んでいます
離陸時
⑤早期加速上昇
離陸後早期に加速を行い上昇する方式は、早い地点で巡航高度に達し燃料消費量の削減が図れることから、積極的に実施し、CO2を削減しています。
飛行中
⑥飛行速度の調整
航空会社は、時刻表に記載された時間に目的地空港に到着できるよう計画して運航しています。しかし、出発空港、目的空港の混雑状況や飛行中の上空の気象状況(特に風速)は日々異なるため、飛行速度を調整しながら運航しています。
向い風が弱い、または、追い風が強い中を飛行する場合で到着時間が予定よりもかなり早まる時などは、飛行速度を調整し燃費のいい速度での飛行をすることでCO2を削減しています。
着陸時
⑦連続降下方式
飛行機は管制官の指示により、決められた高度への上昇・降下を行うため、その航跡は階段状になります(下図)。着陸に向けた降下中は、エンジン推力を小さくする、もしくはアイドル(エンジンを回転数を最小限に抑える)とすることにより低い高度へ降下し、決められた高度を水平に飛行し、管制官からの次の高度への降下指示を待ちます。水平飛行中は高度を維持するためにエンジン推力を適度に大きくして飛行する必要があり、水平飛行が長くなるとより多くの燃料を必要とし、排出するCO2量は増加します。そこで、事前に管制官とのやり取りをすることで降下経路を早期に特定し、従来の階段状の降下ではなくスロープを滑らかに降りるように連続的に降下する方式が関西国際空港、ヘルシンキ国際空港、鹿児島空港の特定時間帯で採用されており、JALグループでも積極的にこれを利用しています。これにより、CO2の削減に加え、管制官との高度確認のための複数回におよぶ無線交信によるパイロットの負荷も軽減され、安全運航にも大きく寄与しています。
⑧低フラップ角着陸方式
飛行機は安全のため、着陸時にはより遅いスピードで地表に近づくことができるように主翼の形状を変えています。このとき、主翼の後端を延長するように出てくるのが高揚力装置(フラップ)です。このフラップは、飛行機が浮く力(揚力)を大きくし、より遅い速度で飛行機が飛ぶことを可能にする助けになりますが、その反面、空気抵抗(抗力)も大きくします。利用できるフラップは機種ごとにいくつかの角度が定められており、大きな角度のフラップはより大きな揚力を生み出しますが、同時により大きな抗力も生じます。そのため、大きな角度のフラップを利用する場合は、エンジンをより高出力に保つ必要があり、その燃料消費がCO2排出量を増加させます。
そこで、パイロットは滑走路の長さが十分にあることなど、着陸時に一定の条件が許す場合、より浅い角度のフラップを選択して着陸することにより、CO2削減はもちろんのこと、地上への騒音もより少ない着陸を心掛けています。
⑨フラップや車輪をなるべく遅く出す
着陸に必要なランディングギア(矢印部分)やフラップ(丸印部分)は、大きな空気抵抗を生み、エンジン出力をより必要とします。フラップやランディングギアは飛行機の着陸時には不可欠な仕組みです。しかし飛行機にとってこれらを機体から出すことは、巡航時と比較して、より大きな空気抵抗を生むことにもなります。これには、より大きな燃料消費、CO2排出を伴います。そこで、運航乗務員は着陸時の条件により、フラップやランディングギアを出すタイミングを少しでも遅らせることで、CO2を削減する努力をしています。
撮影:古萱久雄様
⑩逆噴射抑制
飛行機は着陸後、滑走路内で適切な速度に減速し、滑走路を出てから適切な誘導路へ進みます。その減速にはエンジンの逆噴射と車輪に装備されたブレーキを利用しますが、着陸直後の高速時は大きな減速力を発揮する前者が有効です。この逆噴射はエンジンの機械的な仕組みにより推力を斜め前向きにすることで飛行機を減速させますが、その力となるのはエンジンの回転そのものです。つまり、逆噴射を大きな力で行おうとすれば、より多くの燃料を消費してエンジンの回転数をあげることになります。しかし実際の着陸では、滑走路が十分長い時、向かい風が強い時、滑走路が乾いている時など、いくつかの条件を満たす場合は、アイドル(エンジンを最低限の回数で回転させること)で逆噴射を行うだけで必要な減速が可能になる場合があります。そこで、パイロットは着陸時の条件を判断し、十分な減速効果が得られる場合は、アイドル推力で逆噴射を行い、CO2削減に努めています。
撮影:古萱久雄様
着陸後に逆噴射が作動している様子
⑪地上移動時の片側エンジンのみでの走行
着陸後、駐機場への地上移動では、所定の条件を満たす場合、片側のエンジンのみの推力で走行することで、CO2を削減しています。
運航時以外での取り組み
⑫エンジン洗浄
飛行機のエンジンは、飛行により内部に空気中の細かなちりなどが蓄積されることで徐々に汚れていきます。この汚れは、エンジンの燃費性能を低下させ、結果として余分なCO2を排出します。そこでJALグループでは、エンジン内部を定期的に洗浄し、飛行中に付着してしまった汚れを落としています。これにより、およそ1%の燃費回復につなげています。このようなエンジン洗浄は、概ね200~300日間隔で実施されています。
2022年2月には世界で初めて、リージョナルジェット機のエンジンに泡洗浄を導入しました。
エンジン洗浄作業
⑬機体の改良(ウィングレット改修やリブレット加工など)
従来の飛行機は、主翼の先端が真っすぐ伸びていましたが、それを立たせることで、主翼の先端に発生する翼端渦の発生を抑えることができます。翼端渦の発生を抑え、誘導抗力を減少させることで燃費が向上し、CO2削減につながります。
JALグループでは、ウイングレットの取り付けにより大きな効果が見込めるボーイング767型機の長距離路線用機材9機の改修を行いました。なお最近の飛行機では、ボーイング737-800型機、787型機、エアバスA350型機がウイングレット、または同等の効果のある主翼形状をしています。
ウイングレット
また、研究機関や技術メーカーと共に世界で初めて機体外板の塗膜上にリブレットを施工した航空機による飛行実証試験を進めています。この技術が実用化された場合、燃費が最大2%程度改善し、CO2排出量削減に大きく寄与することが期待されています。今後、国際線機材への拡大を行っていきます。
リブレット加工実証に関するプレスリリース
リブレット施工完成
⑭エンジンのアップグレード・交換
JALグループのボーイング787型機には、米国のゼネラル・エレクトリック社製のGEnx-1Bエンジンが装備されています。同エンジンにはPIP (Performance Improvement Program) と称される、エンジン性能を向上させるためのさまざまな設計変更が施されており、現在PIP-1、PIP-2の2種類を保有しています。
このうちPIP-2エンジンは、PIP-1エンジンの大部分の部品を大幅に改良設計したもので、ファン、低圧圧縮機、高圧圧縮機、燃焼器、高圧タービンを改良することで、PIP-1エンジンに比べ燃費を約1.2%向上させています。
JALグループでは環境に与える影響を考慮して、今後保有する全てのPIP-1エンジンをPIP-2エンジンに改修する予定です。
ボーイング787型機に装備されるGEnx-1Bエンジン