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航空機による大気観測 - CONTRAILプロジェクト

基本的な考え方

JALグループでは、航空会社だからこそできる環境分野での貢献を目的として、航空機による大気観測「CONTRAIL*プロジェクト」を共同で実施しています。このプロジェクトでは、航空機を利用して、地上観測では捉えられない二酸化炭素(CO2)濃度変動のデータを取得しています。これにより、地球温暖化の予測精度を高め、より具体的な温室効果ガスの排出削減目標を策定することに貢献します。
CONTRAILプロジェクトは、航空機を利用して、従来の地上観測を中心とした手法ではとらえられない温室効果ガスの広範囲にわたる3次元分布とその変動を観測することで、地球規模での炭素循環のメカニズムを解明することを目的としています。炭素循環の解明は、地球温暖化の将来予測をより高精度にするとともに、より具体的な温室効果ガスの排出削減目標を策定するために不可欠です。また今後は、パリ協定で定められた各国の温室効果ガス排出削減目標を客観的な観測データから検証することにも期待が持たれています。

* Comprehensive Observation Network for Trace gases by Airlinerの略で、英語で飛行機雲を意味します。

CONTRAILプロジェクトの歩み

プロジェクトの開始

1984年より2年間、東北大学に協力し、成田―シドニー間と成田―アンカレッジ間で手動ポンプによる空気採取で上空の二酸化炭素濃度を観測しました。国際線の定期旅客便による上空での緯度別大気観測は世界で初めての試みでした。

広範囲かつ高頻度に

それまでの観測機器は、限られた路線で「大気をフラスコ(サンプリングした大気を入れる金属容器)に詰めて持ち帰る」だけでしたが、それに加え、新たに機上で飛行中に連続して二酸化炭素(CO2)濃度を測る装置を航空機に取り付け、より広範囲・高頻度でCO2濃度を観測することが可能になりました。これらをボーイング747-400型機(2機・現在は退役済み)とボーイング777型機に搭載し世界の空で観測を行ってきました。

使用する観測機器

以下に示す3種類の観測機器を運用しており、いずれもこの目的のために開発・製造されました。このうちの最初の2つの装置は上記5つの機関に加えて東北大学と宇宙航空研究開発機構(JAXA)が協力して開発を行いました。また、これらの装置を搭載する航空機も特別な機体改修を施す必要がありました。観測機器を搭載する航空機の安全確保のために、厳しい耐空性試験を受け、米国連邦航空局、および国土交通省航空局の搭載承認を受けています。

自動大気採取装置 (ASE: Automatic air Sampling Equipment)

上空のあらかじめプログラミングした12地点の大気(4lx12本)をサンプリングして地上に持ち帰り、国立環境研究所において、CO2、メタン、亜酸化窒素、六フッ化硫黄、一酸化炭素、水素の濃度が分析されます。機器の作動や停止は自動で行われ、パイロットの操作は必要としません。1993年からはじめられた旧ASE観測を含めると、温室効果ガスの南北両半球の上空における緯度分布について、長期間にわたり継続した観測として世界最長の記録です。

CO2濃度連続測定装置 (CME: Continuous CO2 Measuring Equipment)

航空機の上昇中、巡航中、降下中にCO2濃度を連続して高精度で測定・記録します。観測機器の航空機への搭載開始から1~2カ月間(通常 約60フライト)、すべてのフライトで濃度や場所などデータを蓄積し、地上へ持ち帰ります。機器の作動・停止は自動で行われ、パイロットの操作を必要としません。2005年の観測開始より、23,000以上のフライトから1100万個以上のCO2濃度データを取得しています。

手動大気採取装置(MSE: Manual air Sampling Equipment)

自動大気採取装置(ASE)の代替手段として利用されます。各路線に投入される運航機材の計画やタイミングなどの制約により、研究のためのデータを取得すべきフライトで自動観測が出来ない(ASEが搭載できる航空機が運航されない)場合に、本プロジェクトに参加する研究者や社員が操縦室内に手動ポンプと小型フラスコ(12本)を持ち込み、操縦室内の天井部分にあるエアコンの吹き出し口からの空気を、上記ASEの場合と同様にあらかじめ計画した12か所で採取します。

観測により解明されたこと

対流圏と成層圏におけるCO2濃度の違い

CO2濃度の変動について対流圏と成層圏での違いが詳細にわかってきました。下記グラフは欧州便による北極域上空で観測された対流圏と成層圏におけるCO2濃度の変動です。成層圏とは私たちの暮らす対流圏より上空にある、オゾン層などが存在する大気層です。北極域は対流圏と成層圏の境界高度が低いので、航空機の飛行中に対流圏だけでなく、成層圏の空気を観測することもできます。図の赤は対流圏のもので、他の色は寒色系になればなるほど成層圏寄りの数値を表しています。成層圏のCO2濃度は対流圏の季節変動と全く違っていることや、成層圏においても対流圏と同じ早さで濃度上昇が起きていることが確認できます。私たちが化石燃料を燃焼して出したCO2は数年遅れで成層圏にまで達していることがわかりました。

Sawa et al., GRL (2015)

赤道をはさんだ広い範囲でのCO2濃度の緯度-高度分布

下記の図は4月と5月のCO2濃度の緯度―高度分布です。北半球の空気と南半球の空気は簡単には混ざりません。4月の分布を見ると、植物の呼吸活動と人間の化石燃料燃焼で出たCO2による北半球の高濃度と、CO2放出の少ない南半球の濃度とで明らかな違いがあることがわかります。5月になると北半球の高濃度CO2が赤道上空の高高度を通過して南半球に運ばれているのが見えます(矢印の部分)。
このように、大量に得られたCO2のデータを利用して、目に見えない空気の動きを可視化することにも成功しました。

Sawa et al., JGR (2012)

アジア太平洋域のCO2濃度の3次元分布

下記の図は10年間にわたる大量のCMEデータを解析して、これまでは断片的にしかとらえられていなかったアジア太平洋域におけるCO2濃度の分布を3次元的に明らかにしたものうち、8月(下記左図)と9月(下記右図)の分布です。8月には、インドの植生活動によって低いCO2濃度となった空気がモンスーン循環によって上空に運ばれてチベット上空に対流しており、9月になると低CO2濃度の空気が太平洋上に流れ出していく様子を見事にとらえています。

Umezawa et al., ACP (2018)

なお、本研究開発は、環境省 地球環境保全等試験研究費(環境省、国交省実施課題:環1652)による支援を受けて行いました。

外部への協力

温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」の観測への協力

CONTRAILプロジェクトに参加するJAL機によって得られた観測データは、「いぶき」および「いぶき2号」の温室効果ガス観測の検証にも役立てられています。

受賞歴

以下に示す3種類の観測機器を運用しており、いずれもこの目的のために開発・製造されました。このうちの最初の2つの装置は上記5つの機関に加えて東北大学と宇宙航空研究開発機構(JAXA)が協力して開発を行いました。また、これらの装置を搭載する航空機も特別な機体改修を施す必要がありました。観測機器を搭載する航空機の安全確保のために、厳しい耐空性試験を受け、米国連邦航空局、および国土交通省航空局の搭載承認を受けています。

こちらの表は横スクロールできます
2013年 環境賞において優秀賞・環境大臣賞を受賞
2013年 日韓国際環境賞を受賞
2015年 地球環境大賞・特別賞を受賞
2015年 地球温暖化防止活動環境大臣表彰
2019年 日本オープンイノベーション大賞環境大臣賞

大気観測に関する専門家からの声

国立環境研究所 地球環境研究センター 大気・海洋モニタリング推進室 室長 町田敏暢さん

このプロジェクトのように温室効果ガスの濃度を地球規模で高頻度に測定し、そのデータを蓄積するプロジェクトは世界で初めての試みであり、観測データは地球温暖化やその仕組みを調べている世界中の研究者にとっては貴重なデータとして注目を集めています。
2005年から始まったCMEによる連続測定は、画期的な4つのメリットがあります。まず「毎日測ることができる」ということ。つまりデータを頻繁に取得できるということです。第2に「世界各地のCO2濃度を測ることができる」ということ。第3に、地表から上空まで高さの違いによるCO2の変化、つまり「鉛直分布が調べられる」ということ。そして最後に「空間的に詳細な分布を取得することができる」ということです。
特に3番目の「鉛直分布」がとても大切で、その場の陸上植物や海洋さらには人間活動の総和として地表面が放出(または吸収)するCO2量の指標になるとともに、大気の流れ(輸送)の中で最も不確実性の大きい鉛直輸送を検証するにも極めて有効な情報となります。世界中にまだ、これらの鉛直分布データは限られた場所でしか得られていません。それが高頻度で定期的に得られるCONTRAILは画期的なプロジェクトです。
CONTRAILデータは地球規模の炭素循環や大気輸送の研究さらには衛星観測の検証のために、国内外の研究者に広く配布して利用を推進しています。2018年にはCMEデータにDOI(Digital Object Identifier:デジタルオブジェクト識別子)という世界共通の識別番号を付けての一般公開を行いました。DOIの付与によってルールに沿ったデータ利用が極めて容易になり、CONTRAILデータの利用がさらに広がると期待されます。2019年にはASEの一部のデータにもDOIを付与して公開することができました。CONTRAILデータを使った研究成果はこれまでに国際学術誌に59本の査読付き論文として掲載され、学会発表は国内外で290報にもなっています。

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